インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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2020年4月の大企業での施行に引き続き、いよいよ2021年4月からは中小企業においても同一労働同一賃金の対応を求めるパート・有期労働法の改正が行われます。そこで本稿では、中小企業がいま行わなければならない対策について、2020年10月に判決が言い渡された最高裁判例の内容も踏まえ、お伝えします。
いわゆる同一労働同一賃金に関しては今回の法改正によってはじめて求められるのではなく、2013(平成25)年4月の労働契約法改正において、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルール」(労働契約法20条)が導入されており、既に様々な裁判が行われています。
その中でも先駆的な事件が、2016年6月1日に最高裁判決が言い渡されたハマキョウレックス事件および長澤運輸事件です。この2つの判例によって、同一労働同一賃金の対応に関する基本的な内容が明らかとされました。しかし、基本給、賞与、退職金、扶養手当、福利厚生など多くの重要論点についての対応の方向性は不明のままであり、現実的な対応を取ることが難しい状態が続いていました。
こうした中、2020年10月に日本郵便事件など5つの判決が最高裁から言い渡されたことにより(図表1)、多くの論点が明確になり、いよいよ本格的な実務対応を取ることができる状況となりました。そして、2021年4月から労働契約法20条の後継と位置付けられる改正パート・有期労働法が中小企業においても施行されます。同一労働同一賃金の対応もいよいよ待ったなしの状態となっています。
この問題を所管する都道府県労働局には、既に同一労働同一賃金に関する多くの相談が寄せられています。図表2はパート・有期労働法に関する相談件数の推移ですが、2019年度に「均等・均衡待遇関係」の相談が激増しています。これがいわゆる同一労働同一賃金に関する相談となります。本格的な法改正前からこのような状態ですので、法改正後は多くの職場でトラブルの発生が懸念されます。無用なトラブルを防止するためにも確実な対応が求められます。
同一労働同一賃金という言葉からは、同じ仕事をしているのであれば、正社員でも非正規社員でも同じ賃金を支給しなければならないという印象を受けますが、実際には異なります。通常、正社員と非正規社員の職務内容や責任、転勤や配置変更の有無等において、まったく同じということはあまりないでしょう。そのような場合には、その両者の待遇に一定の差異が存在しても問題はありません。
ただし、その差異が不合理なものとならないようにバランス(均衡)を取らなければならないとされています。これを「均衡待遇」といいます。よって同一労働同一賃金の実務対応においては、この「均衡待遇」を実現し、労働条件の差異が不合理ではないと説明できるようにすることがポイントとなります。
改正法が適用されたからといって、すぐに全ての事項についての対応を完了させるのは現実的には難しいかもしれません。
よって以下では、まず短期的に最優先で対応が求められる事項について解説します。
(1) 正社員と非正規社員の待遇差の把握
同一労働同一賃金の対象となる待遇は、基本給だけでなく、諸手当、賞与、退職金、福利厚生、教育訓練、安全衛生など、あらゆる待遇となります。よって、まずは正社員と非正規社員で待遇が異なる処遇について洗い出しを行いましょう。
(2) 不合理な待遇差はないという説明の準備
その上で、待遇に差がある事項については、その待遇の性質・目的および図表3にある4つの要素から、その差異が不合理でないと説明できるか検討を行います。
例えば、正社員と非正規社員の間で賞与の支給ルールおよび水準に差異がある場合、まずは賞与の性質・目的を確認します。賞与の性質・目的は「会社業績とそれへの貢献に応じて支給する成果配分」であると考えられるでしょう。この目的を前提として、その賞与の取り扱いの差異が、担当している業務の内容や、業務遂行に伴う責任の程度が異なるといった理由から具体的に説明できるようにしておくことが求められます。
(3) 待遇差が不合理でないと説明できない場合の対応
以上の検討の中で、正社員と非正規社員の処遇差を説明できないケースも出て来ることでしょう。例えば、通勤手当は、通勤にかかる費用の実費を支給するものであることから、その内容に差異がある場合、業務の内容や責任の程度など、上記図表3の4要素からは説明が難しいと考えられます。こうしたケースにおいては、その処遇のあり方を見直すことも含め、検討が求められます。
このような実務対応の優先順位を考える場合には、これまでに言い渡された7つの最高裁判例を参考にすることになります。図表4は、主な処遇に関する最高裁のこれまでの判断をまとめたものになります。
基本的には、諸手当や福利厚生を最優先事項として対応を行うことが求められます。中でも、家族手当、転勤がない社員の住宅手当、通勤手当の上限額の差といったところが実務上のポイントとなるでしょう。
まずは前項3で述べたような対応が求められますが、同一労働同一賃金の問題で本質的に求められるのは、正社員・非正規社員双方の人事制度の明確化です。それぞれの雇用管理区分の社員にどのような働き方や貢献を期待するのかを明確化し、それを人事評価制度において明示すること。そして、その貢献に見合った処遇を実現することがポイントとなります。
このように考えると、同一労働同一賃金の対応というのは特別なものではなく、企業として当たり前に行っておかなければならないことばかりであり、それがこれまで為されていなかったことから社会的な問題として噴出し、法律による対応が求められることになったと考えるべきなのでしょう。
まずは、一人ひとりの社員に期待する仕事や役割、能力などを明確にし、安心して頑張ることができる環境を作っていきましょう。それが実現すれば、結果的に同一労働同一賃金の問題も解決しているはずです。
【著者】
大津 章敬(おおつ あきのり)
社会保険労務士法人名南経営 代表社員(社会保険労務士)
従業員と企業の双方が「この会社で良かった」と思える環境を実現する人事労務コンサルタント。企業の人事制度整備・就業規則策定など人事労務環境整備が専門。社労士会では、全国社会保険労務士会連合会 働き方改革関連法対応部会部会長を務め、同一労働同一賃金に関する情報発信などを担当している。出版も積極的に行っており、「中小企業の「人事評価・賃金制度」つくり方・見直し方」(日本実業出版社)ほか18冊の著書を持つ。
この記事に記載されている法令や制度などは2021年4月1日時点のものです。
法令・通達等の公表により、将来的には制度の内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。
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