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「世界中の島をエネルギーの宝島に」

株式会社チャレナジー 代表取締役 清水 敦史氏

  • 20-30代
  • 製造業
  • 関東
  • スタートアップ
  • SDGs

この記事は8分で読めます

写真)フィリピン初号機

©株式会社チャレナジー

台風のエネルギーを電気に変える。まさに「台風発電」ともいうべき壮大な目標に挑むベンチャー、株式会社チャレナジーのことを知ったのは今から5年前の2018年。

 

核となる技術、「垂直軸型マグナス式風力発電機」の開発に挑む、代表取締役CEO清水敦史氏に話を聞いた。

 

この発電機の仕組みは、他の風力発電機のようなプロペラを使わず、円筒を気流内で回転させた時に起こる「マグナス力」の作用で軸が回転し発電するものだ。故障しやすいプロペラ式に比べて、風の強さの影響を受けにくいマグナス式は、台風のような強風や乱流の多い地域に向いているという。

 

エネルギー問題で困っている世界の国々にマグナス式風力発電機を普及させたいと語っていた清水氏。2021年、深刻な台風災害の多いフィリピンで初号機を建設した。これまでの歩みを聞いた。

これまでの歩み

2014年に創業したチャレナジー。開発の末、2016年に沖縄の南城市に1キロワットの最初の実証機を設置。大型化への挑戦を続け、2018年には石垣島に10キロワット発電ができる実証機を設置した。

写真)石垣島 10キロワット 実証機

©株式会社チャレナジー

石垣島の次にチャレナジーが挑戦したのがフィリピンだ。石垣島と同じ10キロワットの発電機だ。なぜフィリピンかというと、同国はまさに巨大台風が毎年通る「台風銀座」だからだ。

 

数多くの島からなるフィリピン。チャレナジーが選んだ場所はフィリピンの最北端に位置するバタネス島。2019年からプロジェクトが動き始めた。そこにコロナ禍が襲う。ロックダウンにより現地に行けなくなり、物流も止まった。

 

「非常に苦労しました。人が行けない、物が届かない中で、どうやってプロジェクトを進めるのか」。

代表取締役の写真:清水 敦史氏

工期は遅れたが、なんとか2021年8月25日に竣工し、ホッとしたのも束の間。

直後の9月11日、台風の勢力を表す分類では最大のカテゴリー5の「台風14号(国際名:チャンスー)」が、バタネス島を直撃した。

 

島全体が大きな被害を受ける中、チャレナジーの風車も、円筒1本が失われてしまったが、それでも倒壊せずに残っていた。

 

「なにが起きたかというと、1㎞も離れた市街地から屋根が飛んできて、片側の円筒にぶつかったようです。破損した円筒によって、けが人などの二次被害が起きなかった事にほっとしたものの、このような時にこそ、島の皆さんに電気を供給し役立てることが本来の使命ですから、痛恨の極みでした」。

 

しかしそのような状況下でも、清水氏はある可能性を見出す。

 

「マグナス式風力発電機は、円筒が1本になったとしても、発電できる」。

 

通常のプロペラ式風力発電機だったら、1本プロペラを失ったら風車のバランスが大きく崩れて、とても回し続けることはできない。しかし、垂直軸型マグナス式発電機は、円筒1本を失っても風車のバランスがほとんど崩れない。実際にバランスの影響を計算したところ、読み通り、数キロワット程度は発電できる可能性が示された。

 

「台風からの復興に、少しは役に立つかもしれない」。

代表取締役の写真:清水 敦史氏

2021年11月、清水氏はメンバーと共に現地に飛び、事故原因を徹底的に調査するとともに、残る1本の円筒や基礎、鉄塔等の状態に問題がないことを確認し、円筒1本での発電に挑戦した。

 

2021年12月28日、遂に風車を円筒1本で再稼働し、発電することに成功。台風からの復興の象徴として、島のシンボルの灯台をライトアップさせることができた。チャレナジーの計測器によると84.3m/sが測定された台風で得られた経験と貴重なデータは、チャレナジーが描く未来図をさらに強固なものにした。

新しい挑戦

チャレナジーは、マグナス式風力発電機の大型化に取り組んでいるが、同時に、新しい取り組みも始めている。それが、「次世代マイクロ風車」(以下、マイクロ風車)の開発・販売だ。2021年から開発を始め、昨年、都内に設置した。

 

今回開発した「次世代マイクロ風車」は、災害時の非常用電源として活用できる独自の抗力風車だ。

写真)次世代マイクロ風車

©株式会社チャレナジー

マグナス式風力発電機とは異なる原理だが、チャレナジーの設計思想と、得られるメリットは共通している。

 

1つ目のメリットは、このマイクロ風車は頑丈なモノコック構造のため、台風など強風時に破損するリスクが低いことだ。2つ目は、プロペラ式に比べて低回転のため、周囲への不安感を与えにくく、かつ低騒音であることだ。

 

チャレナジーがマイクロ風車の開発に着手した背景には、2つの外的環境の変化があるという。

 

1つ目は、FIT(固定価格買取制度)のバブルが弾けたことだ。FIT導入当初は買取価格が高かったため、海外から小型風車のメーカーが日本に押し寄せた。しかし、事故や騒音の問題などが相次いだことや、FITの買取価格が引き下げられたことなどからバブルが崩壊した。そこで、日本の環境に合うタフで静かな小型風車を求めて、チャレナジーに問い合わせが来るようになったという。

 

2つ目は、マイクロ風車に防災の役割が求められるようになったことだ。記録的な災害が続く中で、再生可能エネルギーを防災用電源として活用したいというニーズが出てきた。そして、防災用だからこそ、耐久性の高い製品が求められるようになってきた。

 

チャレナジーの「マイクロ風車」は独立電源タイプになっており、停電時の照明やスマートフォンの充電などに活用できる。

 

「我々が一貫して取り組んできた『安心安全な風力発電』という新しい価値にマッチする、人間の生活場所における防災用電源というマーケットができてきました」。

会社の写真:株式会社チャレナジー

「マイクロ風車」のニーズは主に都市部であるが、もうひとつ目をつけたのは豪雪地帯だ。

 

「北陸、東北、北海道等の寒冷地など、年間の日照率が低く、積雪のある場所では太陽光発電が使いづらいのですが、同時に風が強い場所が多いのです」。

 

清水氏は寒冷地での風力発電に期待を寄せる。昨年冬から、青森県六ヶ所村で実証実験をおこなっている。

 

「マイクロ風車」もチャレナジーお得意の垂直軸だ。プロペラ式は着氷着雪の危険があるが、垂直型はそもそも雪が積もりにくい。

 

また素材がアルミニウムであることもポイントだ。コストが抑えられることに加え、修理がしやすく、100%リサイクル可能な点も顧客から評価されている。

写真)寒冷地で実証実験中のマイクロ風車

©株式会社チャレナジー

今後の展開

昨年9月に「前澤ファンド」から出資を受けたチャレナジー、現在100キロワットの開発に挑戦中だ。

 

100キロワットはあくまで通過点。最終的にMW(メガワット)を目指します。そのために、さらなる資金調達が必要になります。そのひとつの方法がIPO(新規公開株式)です」。

 

チャレナジーは、マグナス式風車の大型化とともに、台風が多い日本の環境に適した洋上風力発電を開発したいと考えている。

 

「僕らが洋上風力の『ブルーオーシャン』になると思っているのは太平洋側です。日本の洋上風車のプロジェクトは台風のリスクが低い日本海側に偏っています。2040年ぐらいには太平洋側はチャレナジーベルトと呼ばれているかもしれませんよ」。清水氏はそう笑った。

代表取締役の写真:清水 敦史氏

日本の太平洋側で洋上マグナス式風車の実績ができれば、ハリケーン、サイクロンなどのリスクのある海域でも採用される可能性が高まるだろう。

 

折しも、気候変動の影響が欧州にも現れ始めた。

 

それが「メディケーン」だ。文字通り、地中海(メディタレーニアン)に発生するハリケーンのこと。なんと地中海エリアで近年、台風が発生し始めたというのだ。

 

風力発電のメッカといえばヨーロッパ。すでに多くの風力発電機が海岸沿いに設置されている。無論全てがプロペラ式だ。

 

ヨーロッパでも風力発電の主流は浮体式に移行している。地上に新規に建設する土地がなくなってきたことと、洋上に浮かべれば発電機の数を増やすことができる。ところがメディケーンが来るとなると話は別だ。プロペラは強風に弱い。

 

そうした気候変動の影響もあり、マグナス式風力発電の開発が海外でも始まっているという。すでに特許がいくつか出願されていると清水氏は指摘する。

国産への強い思い

現在、国内の風力発電機は、ほとんど海外メーカー製だ。日本メーカーは撤退してしまった。

 

清水氏は日本の風力発電機メーカーとして、ある強い思いがある。

 

「我々は国産のメーカーとして、当然、国のエネルギー安全保障に貢献したい。そのためには、国内の主電源を担うべき風力発電機も自給すべきだと思っています」と、あくまで国産にこだわる考えだ。

写真:株式会社チャレナジー

水素も諦めない

会社設立当時からチャレナジーは水素の生成も目指している。今でもそのゴールは変わっていない。

 

マグナス式発電機を大型化し、低コストで発電して、島の電力をまかなった後、余った電力で海水から水素を製造する。

 

世界中の島を、エネルギーの宝島にしていきたい」。

 

再生可能エネルギー市場において、チャレナジーがどこまで存在感を示すことができるかどうか。次の5年が勝負の時となりそうだ。




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