インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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フリーキャスターにして国際オーガニックセラピストとして食と健康の啓発活動にも取り組む桑原りさ氏。そのビジネスモデルは、クッキーを販売して、その売り上げを世界のNGOに寄付するというもの。なぜクッキー?なぜ、寄付?そんな疑問を頭に浮かべながら話を聞きに行った。
2012年に立ち上げたブランドは「Sweets Oblige by Asa & Lisa(スイーツ・オブリージュ・バイ・アサ アンド リサ」。これは、恵まれた人間は社会に還元すべきであるというフランス発祥の概念「noblesse oblige(ノブレス・オブリージュ)」から来ている。「美味しいスイーツを食べて幸せになった人は、他の誰かにも幸せを分けてあげよう」という思いを込めたという。桑原氏は、世界に平和が訪れるためには、私たち一人一人の心に平和がなくてはならないと思っている。
桑原氏の留学先のアメリカ・ニューヨークにあるコロンビア大学大学院で知り合った宮下麻子氏と一緒に起業した。国際関係大学院で国際関係を学ぶ桑原氏と教育大学院で栄養教育プログラムを学ぶ宮下氏。専門は違ったが、2人の共通項は「健康オタク」であること。何かに導かれるように出会い、意気投合した。
大学院卒業後、桑原氏は日本に帰国。宮下氏はニューヨークに残り栄養士としての仕事を続けていた。あるとき2人はハワイに旅行に行った。ワイキキの浜辺で寝転がりながら、「体にもよくて、社会にもよくて、美容にもいい、そんなビジネスが一緒にできたらいいね」と語り合った。
「いきなりお店やるのは難しいよね。オンラインで何か販売するのはどうかな?」
「クッキーだったら日持ちもするし、作るのもそんなに難しくないよ」
「じゃ、それにする?」
そしてその当時、脚光を浴び始めた「社会起業家」の存在も大きかった。
「ビジネスで社会を変えることに対する意識が芽生えた時期でした。その時私はメディアの人間として彼らのことを伝えていましたが、ただ伝えるだけでなく、自分自身もアクションを起こして社会を少しでも良くしたい、と思ったのです」
スイーツオブリージュのパンフレットには栄養に関する記載のほか、クッキーを1缶売る毎に途上国や被災地の子どもに寄付をするNGO/NPOについての紹介がある。「私たちにとってこのクッキーは、貧困問題や栄養について伝えるメディアでもあるのです」と桑原氏は言った。
こうして、「健康x食x社会貢献」を形にした「カラダが喜ぶ、世界が喜ぶスイーツ」Sweets Oblige by Asa & Lisaが誕生した。卒業してから3年経っていた。
ハワイ旅行から戻るとクッキーの試作に手をつけた桑原氏。しかし、ほどなくお菓子作りを甘く見ていたことに気づかされる。試作第1号は
「それはそれはまずいものができまして・・・(苦笑)」
それはそうだろう。なにしろクッキーを焼くのは初めてだ。
氏は母に試食をしてもらったのだが、
「世の中にはこんなにたくさんお菓子屋さんがあるのにあなたはなにを考えてるの?どこかで修行したわけでもなく、お菓子の学校に行ったわけでもないのに・・・」と呆れられる始末。
しかしそれで落ち込む桑原氏ではない。氏の真骨頂は「人に絶対頼らないこと」。料理学校に行くでもなく、NYの宮下氏とLINEでやりとりしながら、NYと東京でそれぞれがひたすら毎日クッキーを焼き続けた。そして8ヶ月が過ぎた。
試行錯誤の末焼き上げた渾身のクッキーを再度母に試食してもらった。
「あら、結構いけるじゃない」
そう言ってくれた。
「パッションを絶やさずやってきた結果、お菓子にうるさい母が味を認めてくれた」ことが心底嬉しく、このことが次のステップに進むための自信につながった。
桑原氏は最初から「有機=オーガニック」食材にこだわった。
スイーツオブリージュを立ち上げる前に、ある番組企画がきっかけでオーガニックについて学んだ経験があったからだ。
「それまでは単にオシャレなイメージのオーガニックだったけど、実は地球環境に直結しているし、体の問題にも関わっていて、(さまざまな添加物などを使うことは)根深い問題だと気づいた」という。「自然食の良さを伝えたい」。その思いが、有機の素材へのこだわりにつながった。
今でこそ「ヴィーガン(動物性食品を口にしない完全菜食主義者)」という概念が市民権を得ているが、桑原氏には先見の明があったとしか言いようがない。
「私自身はヴィーガンスイーツを作ろうと思っていたわけじゃないんです。ただ、流通経路が追跡できる安心・安全な原材料を選んだだけなのです。起業して数年経った頃に『もしかして私たちのクッキー、ヴィーガンじゃないの?』って(笑)」
スイーツオブリージュのクッキー、実は「つなぎ」を使っていない。つなぎとは生地をつなぎ合わせる接着剤の役割を果たすもの。通常、卵などが使われる。クッキーには当たり前の様に使われているものだ。なぜならそれを使わないと生地がボロボロになってしまうからだ。また生地を膨らますためのベーキングパウダーも使わなかった。
クッキーの原材料で一番重要なのは主原材料となる小麦である。とにかくネットで有機小麦の生産者はいないか調べまくった。すると、なんと桑原氏の生まれ故郷の熊本県にあった。熊本市の北東に位置する菊池市の「Lonowa(ろのわ)」だ。「日本の食卓を守りたい」をスローガンに無農薬、無化学肥料による有機農業に親子二代でこだわり続けてきた。
現代表取締役の東博己氏が結婚するかしないかの時だ。今から30年以上前の話だ。父が突然こう切り出したという。
「孫には安全なものを食べさせないといけない」
その当時、無農薬で米を作る人などいなかった。しかし、父親はいっぺんに無農薬に切り替えたという。
「私の熊本愛もあって、小麦の仕入れはろのわさん一本でやっています。以前、台風でろのわさんの小麦の生産がストップした時に、海外のオーガニック小麦を試したのですが、食感が全然違うものができてしまったんです。『これ、うちのじゃない』って。なので、その時はうちも生産をしばらく休止しました」
ろのわさんとは一蓮托生だと桑原氏はいう。そのこだわりがスイーツオブリージュのクッキーの品質と味を支えている。
「最近、パンケーキミックスを作ったのですが、卵を入れなくても本当に美味しい!と評判です。これはろのわさんの小麦の力でしかないと思っています」
最近はスイーツオブリージュのコンセプトが時代的にも受け入れられ始めたと桑原氏は感じるという。
企業やアパレルブランド、アーティストなどと数々のコラボレーションが実現しているからだ。
「伝えたいメッセージ、届けたい価値観が同じ方向性だからという理由で異業種からのコラボレーションの話も多く、光栄に思っています」
経営者としての桑原氏の冒険は実はこれからなのかもしれない。そう思ったのは、今、取り組んでいることを聞いたときだ。
呼吸法、ヨガ、瞑想を組み合わせたトレーニングを研究する「マインドフルネスラボ ROOT」を開設した。”ココロとカラダの健康が平和への一歩”を信念にマインドフルネスの普及を目指し、オンラインレッスンをこの2月からスタートさせた。
マインドフルネスとは、「今、この瞬間を大切にする生き方」を指す。
「今私がやっているのは、長年やっているメディアの仕事、もうひとつがスイーツを届ける仕事。そして、このマインドフルネスの事業。結果的に私がやっていることの世界観は同じで、全部繋がっていると思っています」
桑原氏の願いは1つ。世界に平和が訪れること。「『平和』には自分の心が直結している。自分自身の心が平和でないと、家庭や会社での生活にも波及していく」と考えている。
「私は、ユダヤの人々を救った杉原千畝さんにインスパイアされて、世界の誰かを助けられるような人間になりたいと思って大学院で国際関係を学びました。私のクッキー事業もFood for Thought、食べ物によって考えを広げる、思考の種、そういう存在になってくれれば嬉しいと思ってます。そして、それが巡り巡って、メンタルヘルスのアプローチにたどり着きました。人の心が平和でないと、平和は実現できない。地道だけどきっと平和に繋がるんじゃないかな」
お客さまの声をお聞かせください。
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