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時間外労働の上限規制が自動車運転者にも適用!

物流業界の「2024年問題」の影響と荷主側の対応策

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この記事のポイント

1 物流業界の「2024年問題」とは

長時間労働の慢性化や少子高齢化に伴う労働人口減少などに直面している状況を受け、労働環境の改善により生産性の向上を図る目的で、労働基準法などの労働に関わる働き方改革関連法が改正されました。 

その中でも、時間外労働の上限規制、勤務間インターバル制度の導入、月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げなどの労働時間の見直し・削減を目的とした改正は、物流業界に大きな影響があります。 

■図表1 労働時間に関する改正(労働基準法)の施行日

法令改正 施行日 罰則
大企業 中小企業
時間外労働の上限規制 【一般則】
年720時間の適用
2019年4月1日 2020年4月1日 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
【自動車運転業務】
年960時間の適用
2024年4月1日
月60時間超の時間外割増賃金率の引上げ(25%→50%)の中小企業への適用 2010年4月1日から適用済み 2023年4月1日

出所:公益社団法人全日本トラック協会「労働関係法令が改正されました」を基に作成

(注)貨物自動車運送事業の「中小企業」の規模は、資本金の額もしくは出資の総額が3億円以下または常時使用する労働者数が300人以下。

トラックドライバーにも時間外労働の上限規制が適用

物流業界における2024年問題とは、時間外労働の上限規制が自動車運転者にも適用されることによって起こるであろうと予想される問題のことです。 

時間外労働時間の上限は、一般労働者は既に2020年より年間720時間と規制されましたが、2024年4月から、これまで猶予されていたトラックドライバーなどの自動車運転者にも適用され、年間960時間が上限となります。 

トラックドライバーの労働時間が少なくなることは、運送企業の労働環境の改善やドライバーの健康を守るという点では望ましいのですが、運べる物量が減少したり、長距離輸送が難しくなるなど、運送企業の売上げが減少することが予想されます。さらに、割増賃金の引上げによって人件費が高騰し、運賃上昇に踏み切らざるを得ない運送企業が増加します。そうなると、物流サービスを利用している荷主企業にも影響が出てきます。ドライバーの賃金が低下し、離職が進んで人材不足に拍車がかかり、物流全体に支障が出ることとなるでしょう。 

物流業界の中小企業への影響は?

2023年4月から、月60時間超の時間外労働の割増賃金率が、中小企業も大企業と同じ50%以上となります。 

物流業界では、経営不振による解雇や、逆にドライバーがより良い環境を求めて転職するケースが増加しつつあります。残された少ない人数で同じ仕事量をこなすこととなるため、より一層長時間労働に拍車がかかっている状況で、人件費が大きく増える可能性があります。

2 物流業界に求められている取組み

物流業界は、日本のライフラインを司る必要不可欠な業界でありながら、低賃金、長時間労働となりやすく、自動車運転者の労働環境が劣悪となっている企業が多く存在していると考えられます。それゆえ、物流に携わる各企業が働きやすい環境づくりを目指し、できるところから協力して具体的に改善をしていく必要があります。

物流DXの導入/労働力不足対策など

テクノロジーを活用し、デジタル化を推進することで、圧倒的な効率化を図ることができます。これは、物流DXと呼ばれるほど、新技術が明らかに進展しています。 

しかしながら、そういったシステムを導入できる資金力のある企業ばかりではないでしょう。 

そのため、労働環境の主軸をなす労働時間の把握をし、正しい時間管理を行うことで労働環境を改善することができます。詳細に管理を行うことで、労働時間短縮につながる可能性があります。現状を改善するには荷役主となる企業の理解と協力も不可欠です。

3 荷主側である企業の対応策

運送企業の物流サービスを利用している荷主側の企業にとっても、納品スケジュールでの到着日に余裕をもつことや長距離輸送ルートの見直しなどの対応が必要となってくるでしょう。

図表2:荷主勧告に該当すると想定される「荷主の主体的な関与」の具体例

運送以外の作業(積込み・積卸し等)の改善

荷待ち時間の恒常的な発生は、荷主勧告に該当すると想定される「荷主の主体的な関与」の具体例の一つになっています(上図参照)。荷主側には、運送以外の作業(積込み・積卸し等)の改善が求められます。 

荷主勧告制度とは、運送事業者の法令違反行為が荷主の行為に起因するものと認められる場合、荷主事業者に対し、国土交通大臣による勧告が行われ、それでも荷主が改善を行わなかったときは荷主名と事案の概要が公表される制度です。 

図表3:新たな荷主勧告制度の概要

「ホワイト物流」への協力

国土交通省・経済産業省・農林水産省が主体となって、荷主企業と運送事業者が相互に協力し、物流を改善していく「ホワイト物流」推進運動を行っています。深刻化が続くトラックドライバー不足に対応し、国民生活や産業活動に必要な物流を安定的に確保するとともに、経済の成長に寄与することを目的として、トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化、女性や60代以上の運転者等も働けるなど「ホワイト」な労働環境の実現に取り組むことを推進しています。 

物流の改善や効率化は簡単なことではありませんが、物流に関わる企業全体に良い効果がもたらされ、生活に欠かせない物流機能が維持できます。 

荷主企業の具体的な対策として、一部区間を環境負荷の少ない鉄道や船舶にシフトするモーダルシフトも、輸送時間が長くなる、他の運輸会社との協力が必要といった課題はありますが、長距離輸送の場合のコストの削減や、トラックドライバー人材不足問題の解消につながることでしょう。 


この記事に記載されている内容や制度などは2023年2月時点のものです。

石原清美氏

【著者】

石原 清美(いしはら きよみ) 

社会保険労務士事務所オフィスきよみ 

オフィスきよみ企画株式会社 代表取締役 

http://www.officekiyomi.jp 

オフィスきよみ(ロゴ)


関西大学大学院ガバナンス科修士課程修了。 

運輸に特化した社労士として経営者をサポート。 

大阪府トラック協会支部顧問。 

厚生労働省委託事業「トラック運転者の長時間労働特別相談センター」設置及び相談員。 

西日本:0120‐625‐109(無事故トラック)


著書は、『中小企業のためのトラック運送業の時間外労働削減の実務』(第一法規)、『トラック運送業・労務管理の基本の「き」』、『トラック運送業書式集』(日本法令) など多数。 


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