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経営のヒント

「孫の孫の孫の代まで、いい地球でないといけないと思う」
株式会社L-B. Engineering Japan 代表取締役社長 加東 重明氏

  • 60代-
  • 製造業
  • 関東
  • スタートアップ
  • SDGs

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カーボンニュートラルを目指し、日本でもEV(電気自動車)がじわりとその台数を伸ばしている。EV大国の中国などに比べれば、まだまだその普及率は低いが、日産自動車が世界初の量産型EVリーフを発売して10年以上たった今、約50万台強のEVがグローバルで販売された。一方、廃車となったEVも年々増加している。廃車になったEVを蓄電池として使う人がいるようだが、よほど広い庭でも持っていない限り、現役を退いたEVを蓄電池として自宅に置くことのできる人は限られよう。

 

そうした中、使われなくなったEVのリチウムイオン電池を再利用しようと思い立った人がいる。

 

元日産自動車の技術者だった加東重明氏。どのようなビジネスモデルなのか、神奈川県横浜市の開発センターに向かった。

電池リユースビジネス立ち上げの経緯

加東氏は日産自動車で長年製造畑を歩いた。工場の生産ラインの設計、新型車の立ち上げ、量産などを行う、いわば自動車メーカーの中枢だ。

 

日産自動車はルノーと提携する前からEVの開発を着々と進めていた。いつしか加東氏はEVの心臓部、リチウムイオンバッテリーの製造工場を作るなど、その分野を専門に担当するようになっていた。気づけばEVとリチウムイオンバッテリー生産の第一人者になっていた。

 

そして60歳の定年を迎え、加東氏はふと考えた。

 

「EVが廃車になってもまだバッテリーは3分の2ほど容量が残っている。もったいないな」

加東重明氏

わが子のように長年育てて世に出したバッテリーだ。このままでは忍びない。そう思った加東氏。EVのバッテリーのリユースをビジネスにしようと決意し、L-B.Engineering Japanを立ち上げた。

 

リユース電池を活用し、安全で信頼性の高い電池システムを創ること。そして、「可搬型蓄電池」などで、災害対策やエネルギーの再利用に貢献することをミッションとした。

商品ラインアップ

まず2019年から第一段階として、リユース電池を活用することを目標とした。可搬型の蓄電池を開発し、災害対策や太陽光を活用したアウトドアライフを用途にした。ゴルフカートや部品の搬送車等にも用途を広げた。また、太陽光パネル付き外灯やスマホ充電器などにも用途を拡充する。

外灯

L-B.-Engineering-Japan

その先には元素単位のリサイクルも視野に入れる。リチウムイオンバッテリーは希少金属の宝庫だ。ニッケルやマンガン、コバルトなどに分解・分離する技術の確立まで、各種蓄電池で使いつくすつもりだ。

 

「希少元素をもう1回、リサイクルして、最後に再生電池に戻そうと思います。リサイクル技術がビジネス化される2030年ごろまでの間、EVを卒業した電池を産業廃棄物にしないで、最後に『宝島』に持っていきたいというのが僕の思いです」

 

加東氏はまずキャリア付き移動型蓄電池「E2」を商品化したが、思わぬ追い風が吹いた。そう、新型コロナワクチンを冷凍保存するためにバッテリーが必要になったのだ。米製薬大手ファイザーのワクチンは当初マイナス75度前後での保管が不可欠とされていたのだ(その後、マイナス20度前後で14日間保存可能に変更)。停電時の非常用電源としてこうした可搬型のバッテリーはぴったりだったわけだ。

L-B.-Engineering-Japan

その他、災害時に避難所などで重宝しそうなスマホ・タブレット用充電器「D1」や、より容量の大きい、可搬式非常用蓄電池「D4」、太陽光外灯用非常用蓄電池「S3」などオリジナル商品を次々と開発、さまざまな需要に対応できるようにした。

 

「電池の人生90年と考えた時に、最初の30年をEVで生きて、30歳から60歳がリユース電池として生き、60歳から死ぬ90歳ぐらいまでを、太陽光外灯などで終える。そんなイメージです」

L-B Engineeringの強み

クルマに搭載されているリチウムイオンバッテリーを見たことがある人は少ないだろう。以下の写真のノートブックPCのようなものがリチウムイオンバッテリーの「モジュール(module)」だ。それを複数重ねたものを「スタック(stack)」と呼ぶ。当然、モジュールが多ければ多いほど、スタックの発電量は大きくなる。

L-B.-Engineering-Japan

さてこの使用済みバッテリーはどのように調達しているのか。バッテリーパックは、日産自動車と住友商事が2010年に設立した車載バッテリーの2次利用を手掛けるフォーアールエナジー株式会社から調達する。後はそれを組み上げて蓄電池システムにするだけだ。

 

「なにかを溶かしたり分離したりとか、そんなことは一切しません。ねじ回し1本でできるような世界です」

 

と聞けば誰でもできそうなものだが、そうは問屋が卸さない。

 

蓄電池システムを作るためには、インバーターとか充電器とか、制御装置からなるBMS(バッテリーマネジメントシステム)が重要になってくる。いわば蓄電池の心臓部だ。安全で長持ちさせるために、二重三重の安全装置が必要だと加東氏は言う。

 

「過去の経験なり、ノウハウが活きているので、BMSを上手くデザインすることができるのです。いろんな人がこのビジネスに興味を持つのですが『使える蓄電池』にしているのはごく限られた会社だけだと思います。」

加東重明氏

今後の課題 

課題はいろいろある。まず、用途をあらゆる分野に広げることだ。先に述べた非常用電源のほかにも、例えばアフリカのような途上国の井戸で水をくみ上げるポンプの電源に可搬式の蓄電池は重宝するだろう。世界には無限大のニーズがあるはずだ。

 

そして加東氏の話を聞いて驚いたのは、世界でもEVのリチウムイオンバッテリーの再生ビジネスに取り組んでいる会社が数少ないということだ。今後EVは世界中で加速度的に普及していく。中国では既に使われなくなったEVの墓場があると聞く。バッテリー再生ビジネスは待ったなしだ。

 

しかし、L-B Engineeringのビジネスは立ち上がったばかりでスケールしていない。まだ大手資本がこのビジネスの重要性に気づいていないのかもしれない。

 

「イーロン・マスクは電池の再生は考えてないんじゃないですかね(笑)やりたいっていう人がいたら惜しげなく、ノウハウを提供しようと思ってますよ」

加東重明氏

そう加東氏は笑うが、環境のことを考えたら、地球規模で考えねばならないビジネスだ。

 

現状のように日本で製造し海外で売ったEVのバッテリーを日本に持ち帰って再生するのはコストがかかりすぎて非合理的だ。バッテリーの再生ビジネスはそれぞれの国でやるべきだろう。

 

「我々の責務というか、任務です。やりっぱなしで自分の人生が終わっちゃうのはまずい。孫の孫の孫の代まで、いい地球でないといけないと思う。それは経営者の宿命というか。やりきらないといけない」

事業承継 

実は加東氏の息子さんが同社に正社員として働いている。もともと電気専攻なだけに、頼りになる存在だ。

 

「私は今年で辞めたいって宣言してるんですよ(笑) 誰か共感してくれる人がいたら、このビジネス、譲りますよ」

 

もしわが身に明日何かあったら息子がやるしかない、といいつつも、「誰がビジネスを継承してくれるか、考えていくしかない」と加東氏。

 

電気なしに人類は生きていけない。L-B Engineeringのバッテリー再生ビジネスはこれから世界が必要とするものだ。加東氏の引退は、まだ当分先になるような気がした。

株式会社L-B. Engineering Japan 代表取締役社長 加東重明氏




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