中小企業経営者の資産運用① 余剰資金を資産運用に活用する理由
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2022年10月、厚生労働省は新しいウェブサイト「マイジョブ・カード」を公開しました。それまでジョブ・カードは、紙または電子媒体で作成・保存されていましたが、今後は「マイジョブ・カード」により、オンライン上で作成・管理ができるようになりました。
ジョブ・カードとは、厚生労働省が決めた統一の様式(シート)により、労働者自身の生涯を通じたキャリア・プランニングおよび職業能力証明を記録できるツールです。大きく分けて以下の3つから構成されており、❶のキャリア・プランシートには作成しやすくするための作成補助シートがあります。
厚生労働省「マイジョブ・カード」サイト/ジョブ・カード記入例PDF一覧
注目したいのはキャリア・プラン作成補助シートで、これは、設問に沿って答えることにより、労働者が、自然と自分のキャリアや過去、現在、未来、そして職業観などを整理できる構成となっています。そして、すべてのキャリア・プランシートには、キャリアコンサルティングで相談したいことや、キャリアコンサルタントが記入する欄があるのも特徴的です。
このジョブ・カードをオンライン化したものが「マイジョブ・カード」です。オンライン化により、簡単にアクセスし、いつでも確認・加筆をしたり、情報収集に活用することが容易になりました。ハローワークインターネットサービスやjob tag(職業情報提供サイト)と連携しているため、自分の登録情報を活用したり、旬の情報取得もできます。
また、キャリアコンサルタントを検索できるキャリコンサーチや、キャリア形成サポートセンターとの連携もあり、ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングが気軽にできるような設計となっています。
大変便利になったジョブ・カードですが、企業の認知度・活用例は少ないようです。「令和2年度 能力開発基本調査」によると、ジョブ・カードの認知状況は、下図のように大変低いことがわかります。
また、同調査では、ジョブ・カードの活用方法について、「ジョブ・カードを活用した訓練を実施している」が52.6%で最多となっています。一方、「労働者にジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングを実施している」と答えたのは14.8%に留まります。
この調査より、雇用型訓練への活用は多いものの、キャリア形成とは結びついていないことが推測されます。理由としてよく聞くのは、「ジョブ・カードは、労働者と企業のマッチングモデルであるから」です。企業が社内の労働者に対して使用することで、かえって離転職が促進されるという誤解があるようです。
しかし、私は、企業はジョブ・カードを、労働者の『生涯を通じたキャリア・プランニング』にこそ活かしていただきたい、と考えています。
労働人口減少や人生100年時代、変化の激しい社会での新しい働き方・多様な働き方に対応するためには、労働者一人ひとりが自己理解を深め、キャリアと向き合うことが重要なのはもちろんです。
一方、企業はぜひ、自社の労働者のキャリア・プランの再設計をサポートしていただきたいと思います。労働者が自身のキャリアと向き合い、企業がその結果や能力、モチベーションを確認することは、適切な人材配置や育成につながります。また、企業が、労働者のキャリア形成を支援することを強く表明することは、企業内で働くモチベーションを高め、定着を促進し、組織活性化も期待できるでしょう。そして、組織活性化はもちろん採用力強化に直結します。
ジョブ・カードは、いわば共通言語でもあります。企業独自のキャリア支援制度や育成制度が確立されていない中小企業では特に、利用できる場面は多いと考えます。ジョブ・カードの統一された様式や使いやすさ、キャリアコンサルティングの支援が受けられやすいという利点を活用しない手はありません。
実際に、ジョブ・カードを労働者のキャリア支援に活用し、成果を上げている会社もあります。これらについては下表をご参照ください。
■図表4 企業のジョブ・カード活用事例(キャリアコンサルティング関連/2020~2021年度)
企業概要 | 導入目的 | 取り組み内容 | 導入成果 |
---|---|---|---|
A社 製造業 従業員数70名 |
自己理解を深めることで、従業員の個人力 アップにつなげる | 社員に対し、ジョブ・カード作成支援セミナーとキャリアコンサルティングを実施 | 課題を把握し、これから取り組むことを考えることで、仕事に対する姿勢がより前向きに! |
B社 製造業、卸売業、小売業 従業員数115名 |
キャリア形成の意識醸成により、社内の風通しを良くし、心身ともに元気に働ける環境づくり | 社員がジョブ・カードを作成したほか、管理職にはキャリアコンサルティングを実施 | キャリアコンサルティングへの関心が広がり、会社として活用の検討契機に! |
C社 印刷業 従業員数15名 |
・若手従業員の定着率アップ ・ベテラン従業員のモチベーションアップ |
・ジョブ・カード作成支援セミナーに社長も参加 ・活用ガイドを使用して、自己理解を深める |
やるべきこと、できること、すべきことが明らかになり、業務に対するモチベーションが向上 |
D社 卸売業、小売業 従業員数22名 |
キャリアを振り返る機会をつくることで中堅社員の更なるモチベーション向上を図りたい | ジョブ・カードを活用したキャリア研修とキャリアコンサルティングを実施 | 社員の意欲向上により、会社全体が明るくなり、個人の成長を感じ取れるようになった |
E社 建設業 従業員数43名 |
・やりがい 、働きがいの向上 ・自律的に考え、行動できる社員の育成 |
ジョブ・カードを活用した自己理解研修と個別のキャリアコンサルティングを実施 | キャリアコンサルティングと組み合わせることで人事面談がより効果的に! |
出所:厚生労働省HP「マイジョブ・カード」等を基に作成
では、ジョブ・カードを活用するために、何から始めたらよいでしょうか。まずは、労働者に、「職務経歴シート」を都度記入し、情報を蓄積してもらいます。また、定期的に「キャリア・プランシート」を更新してもらい、教育や評価の場で利用するようにします。
なお、ジョブ・カードは労働者本人が作成・管理するもので、提出はあくまでも本人の同意を得る必要があります。
最近、『リスキリング』という言葉をよく聞きます。岸田首相は今後5年間で1兆円を「リスキリング」支援に投資すると発表しました。リスキリングとは、単なる学び直し・生涯学習とは異なり、「これからも職業で価値を創出し続けるために必要なスキルを学ぶ」という点が強調されています。
リスキリングのひとつとして、企業はジョブ・カードを活用していきましょう。
この記事に記載されている内容や制度などは2023年1月時点のものです。
【著者】
田所 知佐(たどころ ちさ)
ドリームサポート社会保険労務士法人 特定社会保険労務士
東証一部上場 公共インフラ企業にて10年間施設企画に従事。その後、仏高級レストランの日本法人にて商品企画に従事。2015年ドリームサポート社会保険労務士法人入社。2018年社会保険労務士登録。2021年特定社会保険労務士付記。前職の経験を活かし、企画・広報・執筆活動など多方面で活躍。近著『図解 社会保障オールガイド 最新版』(そらふブックス/監修)。
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