インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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ジョブリターン制度とは、育児や介護、キャリアアップなどで退職した社員を再雇用する人事制度のことを指します。法律で定義された制度ではなく、会社が独自に決められるもので、「カムバック制度」「自社キャリア採用制度」などとも言われます。いわゆる社員の「出戻り」採用を、正式に制度化・運用しているものです。
平成29(2017)年度の雇用均等基本調査(厚生労働省)では、育児、介護などにより退職した者を再び雇い入れる再雇用制度がある事業所の割合は 30.3% となっています(※定年後の再雇用は除外)。
当初は、主に育児・介護などの離職による再雇用を支援しようという観点で、整備がされていたジョブリターン制度ですが、徐々に変化が現れてきています。退職理由を育児・介護などに限定せず、キャリアアップを理由とした転職、留学、創業などをした社員をも対象にしているのです。
そして、今、ジョブリターン制度が再注目されています。
なぜ、今、ジョブリターン制度が注目されているのでしょうか?
理由は、「人材確保」です。
労働力人口の減少、柔軟な働き方の拡大、兼業・副業や創業を支援する動き、働く人が主体的に働き方を選ぶ現在の日本では、どの企業も優秀な人材の採用と確保に苦労しています。その点、自社の理念や文化を知り、基本的なスキルや知識を備え、即戦力となる人材を、ジョブリターン制度で再雇用できれば、採用のミスマッチが起こりにくく、活躍と貢献を確実に期待できるというわけです。
ジョブリターン制度を導入する企業側の主なメリットには、以下のようなものがあります。
■図表1 「ジョブリターン制度」導入の主なメリット
一方、ジョブリターン制度導入には、以下のようなデメリットもあることに留意が必要です。
〇「あの人だけ特別扱いだ」「ブランクがあるのに前と同じ役職なんて不公平だ」など、現有社員が不満を感じる
〇「辞めてもまた戻ることができる」という考えに基づく、安易な退職を誘発する可能性がある
では、実際にジョブリターン制度を導入する場合は、どのようなことに注意すればよいのでしょうか?
以下、主に中小企業においての注意点をまとめてみます。
(1)ルールを明確化し、就業規則に規定する
今までもジョブリターン制度を非公式で実施している企業はありました。しかし、優秀な社員を再雇用して活躍させるためには、ルールを明確化し、就業規則に規定することが不可欠です。そのことにより、前述した現有社員の不満や安易な退職というデメリットをも防止できます。
■図表2 「ジョブリターン制度」導入時にルール化しておくべきこと
(2)教育はしっかりと実施する
数か月から数年もの間、現場から離れれば、業務知識や社内の制度・ルールなどのアップデートも必要です。教育すべきところはしっかりと教育しましょう。また、その教育風景は、「離れていた社員がちゃんとやっていけるのだろうか?」という現有社員の不安を解消する効果もあります。
(3)情報漏洩に万全の対策を
特に中小企業の場合、再雇用された本人が前に勤めていた会社と業界や地域が同じという場合が多いでしょう。また、退職前と同じ部署に配置され活躍してもらう場合もあると思います。
ジョブリターン制度を利用する社員は、他で得た経験や人脈をこれから活用していきたいと考えているものです。とはいえ、採用側としては、開示してはならない情報について整理し、厳格に管理することが重要です。
優秀な人材の採用と確保に苦労している企業にとって、ジョブリターン制度は有効な制度のひとつです。
ジョブリターン制度導入を検討する際は、業種や社員数規模、地方での事業所の有無や数、年齢層、過去にいわゆる「出戻り」社員がいたかどうかとその際の働きは? などのポイントに注意します。
そして、もっとも重要なことは、ジョブリターン制度の目的を明確にすること。
筆者の知人が勤める会社では、『退職後も自社製品のファンであり続け、愛情を持つ社員の新しいアイデアを得る』という目的を掲げ、《退職後もインフルエンサーとして愛情をもって自社商品を宣伝してくれた者を歓迎する》という非常にユニークなメッセ―ジを打ち出しています。
まずは、自社でジョブリターン制度を導入した場合、どんな効果を得たいのか、その目的を明確にすることから始めましょう。
【著者】
田所 知佐(たどころ ちさ)
ドリームサポート社会保険労務士法人 特定社会保険労務士
東証一部上場 公共インフラ企業にて10年間施設企画に従事。その後、仏高級レストランの日本法人にて商品企画に従事。2015年ドリームサポート社会保険労務士法人入社。2018年社会保険労務士登録。2021年特定社会保険労務士付記。前職の経験を活かし、企画・広報・執筆活動など多方面で活躍。近著『図解 社会保障オールガイド 最新版』(そらふブックス/監修)。
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