インボイス制度導入でどうなる? 税務調査の方針と留意すべきポイント
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「仕事や投資に必要だし、決算書を読めるようになりたい。でも、決算書を読むのってなんだか難しそうで・・・」
こんなふうに考えていませんか?
新聞や雑誌の記事などの定性的な情報だけでは、会社の本当の姿を理解することはできません。決算書のような会社の数字(会計の数字)と定性的な情報を組み合わせることによって、初めて会社の実態を読み解くことができるようになるのです。
決算書を読むことができれば役に立つことがわかっているのに、なかなか読むことができるようにならない理由は何なのでしょうか?
その理由の一つは、決算書を読むのに時間がかかることです。決算書を読む力を高めるためには多くの場数を踏むことが必要なのですが、1社1社の決算書を読み込むのに時間がかかるため、なかなか先に進まず嫌になってしまうのです。
これを乗り越える上で有効なのが、決算書を比例縮尺図に図解して比較するという方法です。決算書を図解して同業他社などと比較すれば、短時間でその構造を理解できます。
それでは、工具や雑貨、インテリアなどを取り扱う、DCMホールディングス(以下、DCM-HD)とニトリホールディングス(以下、ニトリHD)の決算書を図解で比較してみましょう。
DCM-HDは、2005年にホームセンター大手のカーマ、ダイキ、ホーマックの3社が統合して生まれた、ホームセンター業界最大手です。ニトリHDは、「お、ねだん以上。」のキャッチコピーで知られる、家具や雑貨の販売を手掛ける企業です。
両社は、家具の小売とホームセンターを手掛ける島忠を巡って買収合戦を繰り広げましたが、最終的にはニトリHDがDCM-HDより高い買収価格を提示し、島忠を買収することに成功しました。実は、決算書を読み解くことで、ニトリHDが高い買収価格を提示できた理由がわかるのです。
まず、DCM-HDの決算書から見ていきましょう。
2020年2月末現在、DCM傘下の企業の店舗数は673で、日本最大級のホームセンターチェーンです。傘下企業の店舗の土地、建物を保有していることから、B/Sには有形固定資産が1,960億円計上されています。
一方、P/Lに目を向けてみると、原価率(=売上原価÷売上高)は66%です。小売業全体の原価率は平均で60~70%といわれていますから、ほぼ平均的な水準です。また、販管費率(=販管費÷売上高)は29%で、売上高営業利益率(=営業利益÷売上高)は5%となっています。
続いて、ニトリHDの決算書を見ていきましょう。
ニトリHDのB/Sの資産サイドにも、大きな有形固定資産(3,070億円)が計上されています。ここには、店舗の土地や建物のほか、物流センターやベトナムの家具製造工場の有形固定資産も計上されています。
ニトリHDは、SPA(製造小売)型のビジネスモデルを採用しており、自社工場のほか、協力工場とも連携しながら家具を製造し、自社店舗に流通させています。そのため、自社工場や物流センターの有形固定資産も計上されているわけです。
そして、SPA型のビジネスモデルを採用している企業では、原価率が低くなる傾向があります。これは、メーカーや卸のマージンが乗らずに済むからです。実際、ニトリHDの原価率は45%と、小売業の平均的水準を大きく下回っており、売上高営業利益率は17%と高い水準を実現しています。
高い利益率を上げてきた結果として、ニトリHDは自己資本比率82%という強固な財務基盤を築くことに成功しました。この財務基盤こそが、島忠の買収合戦でDCM-HDの価格を上回る条件を提示できた理由なのです。
ここで、両社のビジネスモデルの特徴をまとめておきましょう。
最後に、興味のある会社の決算書を図解してみたいと思った方のために、B/SとP/Lの比例縮尺図をエクセルでつくる方法について解説しましょう。
まず、例としてエクセルのシートに以下のようなデータを入力します。
次に、これらのデータをすべて選択した上で、「挿入」タブから「縦棒/横棒グラフの挿入」を選択し、「その他の縦棒グラフ」から「積み上げ縦棒」グラフを作成すると、下のようなグラフをつくることができます。
このグラフを比例縮尺図にするために、次のような手順で書式を整えていきます。
こうしてでき上がったのが、以下のようなP/L(営業利益まで)の比例縮尺図です。
今回はP/Lの比例縮尺図をつくりましたが、同じような方法でB/Sの比例縮尺図も作成できます。
実際に自分の手で決算書の比例縮尺図を作成することで、図解の効果を実感できます。ぜひ、試してみて下さい。
【著者】
矢部 謙介(やべ けんすけ)
中京大学国際学部・同大学大学院経営学研究科教授
専門は経営分析、経営財務。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)およびローランド・ベルガーにおいて、大手や中小企業に対する経営コンサルティング活動に参画。2008年に大学教員に転身し、その後現職。マックスバリュ東海社外取締役なども務める。著書に『決算書の比較図鑑』『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)などがある。
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