中小企業経営者の資産運用② 実施時のポイントとリスク管理
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家業の倒産がきっかけで、株式会社FBマネジメント社を創業。同族経営企業の経営力向上をサポートしながら、同時にメディアでの高い発信力にも注目が集まる山田一歩氏。コロナ渦において中小企業を取り巻く変化が激しさを増す中、ファミリービジネスの今後をどのように見据えているのか、話を聞いた。
新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの中小企業が窮地に立たされている。数多くのファミリービジネスのコンサルティングを行っている山田氏は現況をどう見ているか聞くと、意外な答えが返ってきた。
「コロナになったからといって何か変わったかといえば、個人的には(変化は)ないと思っている」
山田氏は、コロナの前からオンライン化やデジタル化などに真剣に取り組んでいた会社は影響が軽微で、逆に伸びている会社もある、と断言する。経営者のやりきる能力とタイミングが良い会社は伸びているし、駄目なケースは苦しんでいると分析した上で、「リーマンショックの経験があり、危機意識や危機管理能力がある会社が生き残っている」と話す。
ではどのような会社がこれから業績を伸ばすことができるのか。この問いに対しても山田氏は明確だ。
「良い商品、良いサービスを持っている会社は、やり方さえ変えれば、今の時代でも伸びる可能性を秘めている」
リアルの店舗販売だけでなく、自社ECで商品を売る力を持っていたり、販売ルートやエリアが複数あったりするような、「リスクが分散されている会社」は、業種にもよるがコロナの影響が軽微か逆に売上が伸びているのだという。
観光や飲食やサービス業など、壊滅的なダメージを受けている業種は多い。しかし、そうした中でも、果敢に業態を変えようとしている企業もある。山田氏は、とある結婚式場の話をしてくれた。
「1年後まで披露宴はほぼ見込めない。でもその会社の社長は150人いる従業員を1人も休ませていない。何故か?全従業員に『結婚式は一旦忘れて、皆で新規事業を考えていこう』と言っている」
経営者の能力は方向性を示すことだと山田氏は言う。加えて、人の採用が上手いことと、資金調達が上手いことだ、とも。
FBマネジメントのクライアントには老舗企業が多い。しかし、70代、80代のオーナーにそこまで大胆な経営判断ができるものなのだろうか?そんな心配を山田氏は笑い飛ばす。
「70代のオーナーでもZoom(注1)を使いこなす人はいる。そういうオーナーは、新しいテクノロジーを入れると、じゃあこういうことはできないかと、どんどん聞いてくる」
柔軟な経営判断は年齢とは関係ないということだと思い知らされた。
FBマネジメントのクライアントは、創業歴が長く、年商10億円~100億規模のオーナー経営者が大半を占める。そうしたオ―ナー経営者が何でも相談できる、総合ソリューション企業を目指している。
ここで疑問が湧いてくる。そうすると、ありとあらゆる分野に精通したコンサルタントを抱えねばならないのではないだろうか?この問いに対しても山田氏は躊躇ない。
「うちはスペシャリストの領域を全て網羅し、チームで対応するようにしている」
「チームで対応する」とはどういうことか?突っ込んで聞いてみると、実にうまくできた仕組みが見えてくる。
まず同社は、フリーランスのプロフェッショナルを大量に抱えている。特にデジタル分野の人材をプラットフォーム化しているという。その名も「FBMプロフェッショナルクラブ」だ。
マーケティングだろうが、会計だろうが、採用だろうが、DX(デジタルトランスフォーメーション)だろうが、オーナーが望めばその分野のプロフェッショナルを機動的に投入できるところがミソだ。オーナー経営者にとってみれば、ワンストップでどんな悩みでも解決できる。なんとも心強いではないか。
しかし、その為には老舗オーナー企業から信頼を勝ち取ることが大前提となるはず。新興企業である同社はどのようにしてその「信頼」を勝ち取っているのだろうか?
FBマネジメントは、老舗企業の経営者の悩みをいわば税理士の税理顧問業務のように親身に相談に乗り、即座に解決に動く。それが評価されているのだ。では、いわゆるコンサルティング企業とどう違うのか?
「アイデアを考えたらすぐに実行出来るチームがうちにはいる」と山田氏は胸を張る。
老舗企業はネット販売を強化したくても、どこに何を頼めばいいか皆目見当が付かない。そこに同社が間髪入れず、プロフェッショナルを送り込むわけだ。ここがただのコンサル企業と違うところだ。
一旦オーナーの信頼を勝ち取れば、毎月顧問料が入ってくる「リテーナー契約」を結ぶことができる。
「リテーナー契約が何年も続く方がいい。うちはいわば、社外のNo.2のようなポジションなので」
次に中小企業の直面している課題について聞いた。老舗オーナー企業なら当然のことながら経営者の高齢化と後継者の不在問題だろうと思っていたが、これまたあっさりと否定された。
山田氏がずばり指摘するのは「ミドルマネジメント問題」だ。聞きなれないが、何が問題なのか?
「社員の平均年齢上がっていて20代がどんどん辞めていく現象が起きている」
社長の周りに取り巻きの番頭達はいるが、ミドルマネジメント層がぽっかり空いている老舗企業は多い。相談できる30代の先輩が1人もいない会社に20代の若手社員はいつかないという。結果、組織がいつまでたっても活性化しないという悪循環に陥っていく。
これを「ミドルマネジメント問題」と山田氏は言う。そこを厚くしない限り、老舗企業の復活はないと看破しているのだ。
ではどうやってビジネスモデルが古い老舗企業を復活させるのか?
山田氏は、3つのステップを提唱する。
ステップ1は、「ビジネスモデルを進化させる」
10年前までは独自性がある商品やサービスがあった企業の場合がこれに当てはまる。こうした企業は、番頭軍団=次世代幹部の高齢化が深刻だ。3~5年後の組織図を作り、ヘッドハンティングして新たな人材を連れてきたり、社内の優秀な若手を昇格させたりすることで底上げする。
次がステップ2。「マーケティングやブランディングを進化させる」
そして、ステップ3。「営業やオペレーション体制を仕組化する」
実にシンプルだ。この3ステップをオーナー経営者に解説し、インスピレーションが湧くようにしていくのが当社の役割である、と山田氏は言う。
人材が鍵だということは分かった。しかし、地方で優れた人材を採用するのは至難の業のような気がする。
山田氏は、採用に対する老舗企業の考え方がそもそも問題だという。
「儲かっているのにハローワークでしか求人を出さない。採用にお金をかけない。それではだめだ。」
ここに山田氏の哲学がある。言い古されたことではあるが、やはり「組織は人」なのだ。良い人を採用して組織を作ることが結局会社を強くする。
しかし、一筋縄ではいかない老舗企業の経営者と相対峙するのは容易なことではなかろう。当然、アドバイスする側にもそれ相応の人間力が求められるはず。
山田氏は、最前線の仕事を「総合格闘技」に例える。ただ単に能力が高いだけではだめで、老舗企業の経営者の心を動かす「人間力」を兼ね備えていなければならない、という意味だ。立ち技だけでなく寝技も必要というわけか。
「だから、うちは中小企業経営者とビジネスを多くしてきた人材を積極的に採用している。大企業での経験というよりは、スモールビジネスの経営経験がないと、ファミリービジネスのコンサルは難しい」
とはいえそんな人材、そんじょそこらにいるものなのだろうか?筆者の懸念も山田氏は一蹴する。なんとFBマネジメントへの応募は月に100人は下らないというのだ。社長の仕事の7割は採用だと言い切る。どんな人間が集ってくるのだろうか?
「起業には向いてないが、老舗企業の支援にコミットしたい、という人が多い」
たしかに「老舗企業支援」を大々的に打ち出している企業は珍しい。
「これこそ私がやりたかったことなんです!」
そう目を輝かせる人材が集ってくるのだという。
もう一つのキーワードは「グローバル」だ。老舗企業の弱点はどうしても国内市場だけ見ていること。これからはグローバルに市場を広げていかねばならないと山田氏は見ている。
2025年までに127万社が廃業すると言われている日本。FBマネジメントはこの未曽有の廃業ラッシュの中でどのような未来像を描いているのか。
「日本版LVMH(注2)を目指す」山田氏はそう明言した。
1個1個の魅力的な会社が独立している連合軍のイメージだ。
「創業100年200年の老舗企業のブランドを大切にし、横で連合して伸ばせるものは伸ばす。『プラットフォーム化したグループ』を目指す」という。
FBマネジメントには、年商10~100億規模の新規オーナー経営者との接点が年間1,000件にのぼる。
「弊社が選ばれるのは、ビジョンやワクワク性、将来性だと思う。その点にはこだわっている」
さらっとそう話す山田氏。
「日本版LVMH」誕生をこの目で見る日はそう遠くないかもしれない。
注1)Zoom(ズーム)
パソコンやスマホアプリなどを使って簡単にテレビ会議ができるweb会議ツール.
注2)LVMH
モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン。フランスパリを本拠地とするファッション業界大手企業体。
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