父が築き守ってきたプロテック 「人のために」の理念を貫きたい プロテック株式会社 代表取締役 小松 麻衣氏
- 40-50代
- 北海道・東北
- 女性経営者
- 後継者
奈良県は日本一の靴下製造地。恥ずかしながら筆者は知らなかった。鈴木みどりさんは株式会社鈴木靴下(奈良県磯城郡)の3代目跡取り娘。なんと前職はCAだという。その彼女の夢は「臭わないストッキングの開発」。なんでもCAの足は「意外と臭い」(鈴木さん談)という。ホント?これは話を聞かねば、と思い立ち、エヌエヌ生命の家業イノベーションラボ実行委員のメンバーたちと奈良へと向かった。
(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)
鈴木さんはCAを3年務めて家業に戻り、今4年になる。ちょうど仕事が面白くなってきたころだろうに、辞めることに葛藤はなかったのだろうか?
「国際線のビジネスクラス習熟という当初からの目標を達成した、というのが大きいですね。ちょうど契約更新の時期でもありました。主人との結婚も理由の一つです。」
しかしもっと大きな理由があった。
「父の力になりたいと言うのが一番の理由なんです。」
鈴木靴下は大手スポーツメーカーのOEM(相手先ブランド製造)としてサッカーのゲームストッキングを製造している。転機は2006年に訪れる。みどりさんの父、鈴木和夫社長が、和歌山県工業技術センターの谷口久次先生、築野食品工業(株)、オーミケンシ(株)の協力を得て、独自の新・技術製法で米ぬかの天然成分をレーヨンに練り込んだ『米ぬか繊維SK』を開発したのだ。こうして、米ぬかの天然美肌成分を配合した、その名も『歩くぬか袋』が商品化された。その時鈴木さんは高校生だったという。
「高校から帰ったら、父が鍋で何か焚いているんですよ。何かなと思ったら靴下と米ぬかを一緒に炊いていて・・・『今日の夜ご飯やでーと(笑)。』」
ただ、和夫さんの開発は当初は社内でもなかなか理解してもらうことができず、開発も休日や仕事終わりに行っていた。その”米ぬかソックス”を鞄につめこみ、東京に商談に行った時のことだ。
「東京に行っても人脈なし。知名度なし。信用もなし。ないものだらけの小さな会社の社長が出てきたところで全く相手にされず、色々きついことも言われたそうです。夜、父から『今東京駅やねんけどごみ箱に頭突っ込んで吐いてしまった』」と母に電話がかかってきたこともありました。
「当時は東京へ出張するなんて鈴木靴下にとっては一大イベントだったので、父も『成果なしでは帰れない』という気持ちが強く、プレッシャーは相当なものだったようです。そういった父の苦労を一番傍で見てきたこと、そして米ぬかソックスの良さを実感していたので、何ができるかわからないけれど『父の力になりたい』、そう強く思うようになりました。」
長女として生まれたからには私が継がなければ。そう思っていた鈴木さん。家に戻る、と言ったときのご両親の反応はどうだったのだろう。
「とくに母は『いいの?(辞めるなんて)もったいないやん』って感じでしたね。でも、やっぱり誰かがここを守っていかないといけない。嬉しかった、と後々耳にしました。」
父・和夫さんが喜んだ姿が目に浮かぶ。
鈴木さんは今、新しい機能性商品の開発に力を入れている。それが”消臭パンティーストッキング(パンスト)”だ。CAの悩みの一つは“足の臭い”だというのだ。
「CAは同じ靴を長時間、何日も履くので、どうしても足が臭くなるんです。みんな足の裏にクリームを塗るなど、色々と対策をしています。私自身、足の臭いが気になっていたので、どうせ足に携わることをするならそれを解決したい、と思い開発を始めました。“元CAが考えたCAのための消臭ストッキング”を形にしていきたいと思っています。」
実は普通の靴下とパンストの機械は全くの別物だ。糸の番手も、生産ロットも全然違う。全国でパンストを生産する工場は数少ない。そんな中、パンストに関してはド素人の小さな会社が開発する、どれだけ売れるかもわからない商品を共に開発してくれる工場があるのか。パンスト業界では敬遠されがちな「綿」を編み込むなど、こだわったものづくりを一緒にしてくれる工場があるのか。「協力工場がなければ開発することすらできないので、『中野産業(株)』から協力頂けるとお話を頂いた時は、本当にありがたかったです」と鈴木さんは語る。
現在、試行錯誤を繰り返し、開発最終段階にまでこぎつけたという。その画期的な消臭パンストの特徴とは?
「まずは“発想”です。『元CAが作ったCAのための消臭ストッキング』。その名も『Flight Stockings®』。2つ目は“履き心地“。伝線しにくい糸を使用し、立ったり座ったりしてもズレにくい構造に仕上げました。大手パンストメーカーさんのパンストを履いているCAも多いので、そんな方たちにも違和感なく履いて頂けるような履き心地を目指しました。」
また、女性にとってパンストは1日のモチベーションが変わるほど重要なもの。自身の経験に基づき最適な圧を実現する、と鈴木さんは意気込みます。
そして3つ目。「3つ目が“消臭”です。“TioTio®プレミアム”という加工剤を使っています。(株)サンワード商会が国立大学法人大阪大学と共同研究開発して生まれた新型触媒で、消臭に加えて抗菌機能もあり、地下鉄等電車の座席シートや空調フィルター、高速バスの座席シートなどにも使われています。」
「刺激臭が無かった」、「いつもより臭いが軽減された」などモニタリング結果を踏まえ、現在は”足底の機能”をどう高めるかに腐心している。パンストの生地に綿を編み込むことで、吸汗性をアップさせ、“TioTio®プレミアム”の効果をより発揮させやすくするのだ。ただし、こだわればこだわるほどコストも当然アップする。機能性と価格の折り合いをどうつけるかが今後の大きな課題だ。
鈴木さんに今後の展望と夢を聞いた。
「OEMを堅持しつつ、自社開発商品の売上比率を半分にまで引き上げたいです。というのも、サッカーソックスは入学シーズンの春先が忙しく、秋口はシーズンオフと波が激しい。弊社の特徴である小ロット・短サイクルを実現し続けるには、人手の確保が必須ですが、シーズンオフには人手が余ってしまいます。自社開発商品を伸ばしていくことは、一年を通して安定した生産、人手の確保、ひいては安心して働ける会社に繋がると信じています。商品を手に取って下さるお客様にも、従業員にも、『幸せ』を感じてもらえる会社であり続けたいです。」
「また、長期的な視点でいうと、子育て世代の女性が働きやすい環境づくりをしたいです。子育てをすることによって家の中に閉じこもりきりになって鬱になってしまうお母さん方が多いと聞きますが、そういった方が孤立することなく、元気に笑って働ける環境をつくれたらいいのになぁと思います。」
「英語教育にも興味があります。将来英語教室みたいなものを開けたら楽しいかなと思って。というのも、英語で私の人生は変わったといっても過言ではないからです。まだまだ先の話ですが、靴下だけにこだわらず世の中の人が求めてることにはどんどんどんどん挑戦していきたいと思います。」
鈴木靴下の哲学は、今は靴下=繊維を通じてだが、根底にあるのは、顧客ニーズ、すなわち「人のいろんな悩みを解消すること」だと鈴木さんはいう。父和夫さんの口癖は「業界でリーディングカンパニーになる為にはニーズ(NEEDS)を追うのではなく、ウォンツ(WANTS)を作りださねばならない」ということ。人の悩みを解決する会社でありたい。鈴木さんは今、真剣にそう願っている。
実は鈴木さんのご主人はスウェーデン人。国際結婚だ。
「主人には婿養子に入ってもらわないといけないとずっと言っていて、ありがたいことに理解してくれました。ただ、靴下には興味がないらしく(笑)今はシステムエンジニアとして働いています。しかし、いつの日か私たちの会社にIT事業部ができる日が来るかもしれません。共に英語教室をする日が来るかもしれません(笑)この先はどうなるのやら。」
家業は代が変わってイノベーションが起きる。次に鈴木さんにあった時、鈴木靴下から靴下の2文字がまだ残っているだろうか?鈴木みどりさんの“こだわり”をこれからも見続けたい。そう思った。
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