父が築き守ってきたプロテック 「人のために」の理念を貫きたい プロテック株式会社 代表取締役 小松 麻衣氏
- 40-50代
- 北海道・東北
- 女性経営者
- 後継者
1919年創業の老舗企業が打った新たな一手は、アナログとデジタルが融合した新しい黒板だった!スマホを活用したハイブリッド黒板アプリ「Kocri」の開発以来、意欲的な商品を発表し続ける姿に共鳴した新メンバーが続々参画し、新時代のものづくり企業として進み続ける。企業資産をデジタルと融合させた株式会社サカワ 代表取締役坂和寿忠氏に変化し続ける伝統企業のあり方、企業承継の理想形を聞いた。
株式会社サカワ
代表取締役 坂和寿忠氏(さかわ・としただ)
1986年生まれ。愛媛県出身。1919年に創業した株式会社サカワの4代目として2018年に社長に就任。大学卒業後に家業である同社に入社。東京支店で電子黒板の営業販売に従事後、2015年に面白法人カヤックとの協業でハイブリッド黒板アプリ「Kocri」を開発。以来、次々に新商品を発表し、アナログとデジタルを融合させた新しい黒板のかたちを模索している。
漆塗りの技術を基盤に、1919年に愛媛県で創業した黒板メーカー「サカワ」。100周年を迎える老舗企業である。4代目の社長として陣頭指揮する坂和寿忠氏も、その伝統を一心に背負って育ってきた。
「生まれた時、名前を『黒板』とつけられるところだったんですから、家族の思いの強さも分かるでしょう(笑)。祖母が3代目の社長で、両親が取締役でした。小学生の時の将来の夢に『黒板屋』と書いたのを覚えているぐらい。祖母、そして親の思いをしっかり刷り込まれて育っていきましたね」
思春期の頃は反発もしたというが、大学では家業に関連する建築を学び、新卒で家業の会社に入社する。伝統の100年企業ながら、坂和氏曰く「新しもの好きで、どんどん取り組んでいこうという気風がある」のがサカワの社風だという。教育現場にも訪れた電子化の波に乗り、「電子黒板を売ってこい!」と東京支店を任され、営業で全国の学校を飛び回った。
「電子黒板。これがガンガン売れたんです。タイミングがよかったんでしょうね。文部科学省が2009年にスクール・ニューディール構想を打ち立て、教育現場にICT(情報通信技術)機器の導入を図っていました。電子黒板もその一つとなって、国から補助金が出たんです。サカワの新しい事業の一つになる、という思いから、とにかく学校を回って営業攻勢をかけました」
しかし、ある日のことだ。かつて納品した学校に足を運ぶと、現場に電子黒板の姿はなかった。教室には、オールドスタイルの黒板にチョークで板書する、100年前と同じ風景。電子黒板は? ホコリをかぶり、使われることなく放置されている自社の商品に言葉を失う。
「政府の後押しがあっても、普及するにはまだ早かったんでしょうね。先生のICT知識を育てている最中で、電子黒板を受け入れても、現場には活用できるだけの基盤がまだなかったんです。本当に先生に便利に使われるものを作らないと…と頭を抱えましたね」
むなしさを覚えながら、電子黒板の営業販売に従事する坂和氏。何気なく見ていたテレビ番組にくぎ付けになる。「これって……」何か、現状を変える手掛かりが見えた気がした。
「ITベンチャーのチームラボ(※)を立ち上げた猪子寿之さんを取り上げた『情熱大陸』ですね。テクノロジーでアートを生み出す。その斬新さもさることながら、すごく楽しそうに仕事に取り組んでいるんです。」
最新のテクノロジーを活用したシステムやアート、デジタルコンテンツの開発を行う「ウルトラテクノロジスト」集団。
「僕はそれまで、仕事は苦しいもの、しんどいものとばかり思っていました。だけど、違う働き方もある。楽しく仕事ができて、それが世の中に影響を与えて、役に立つ。そんな素晴らしいことがあるのか! 興奮しながら、『楽しく仕事をしている人』をリストアップし、その仕事ぶりを追っていったんです」
「楽しい仕事」にフォーカスすると、「面白法人」を掲げる株式会社カヤックが強烈な印象を残した。自分も楽しい仕事をしたい! 強い思いにかられ、坂和氏はアクションを起こす。
「カヤックさんは企画制作集団で、いろいろな企業と協業しながらサービスや商品の開発を手掛けています。そこで『僕は黒板屋をやっていますが、楽しい仕事をしたいんです。黒板を変えるため、何か一緒にできませんか?』と、問い合わせフォームからメッセージを送ってみました。問い合わせは無数にあるだろうから、リアクションには期待していなかったんですが…」
カヤックからはすぐに返信があった。協業へ、そして黒板を変えるプロダクトへ結実する第一歩。「楽しく働いている人たちに会ってみたい!」という坂和氏の思いが、100年企業の重みを少しずつ動かしていく。電子黒板の営業で事業原資を作った坂和氏は経営陣に熱い思いでプレゼンし、開発に注力できる体制を作った。
「あの問い合わせフォームを送信した瞬間から、僕の人生が変わったと思います。アート系ということで協業には至りませんでしたが、チームラボさんにもメッセージを送り、実際に会社にも遊びにいくことができました。『まずやる』――これは株式会社サカワの行動指針でもありますが、まず、やるんです。当たり前すぎるかもしれませんが、これを実践できる人は意外に少ない。僕はそう感じています」
「100年変わらない黒板を変える」。そんな思いからカヤックと創り上げたのが、黒板アプリ「Kocri」だ。プロジェクターによって、図形や文章などが黒板にパッと映し出される。操作するのはスマホ。教育現場の教師たちも、これなら直感的に操作できる。スキルを要さず、導入コストも低い。2015年のリリースから大きな反響を呼び、現在は6万ダウンロードを越すほどの人気だ。
「アイデアの原点はプロジェクションマッピングです。黒板というアナログに、デジタルをどう融合させるか? を解決すべく、カヤックさんと進めていったんですが…製品名を考えるのも初めてですし、利用シーンを想定しながらあれこれアイデアを出すのも初めて。これが楽しく仕事をするということか! と全身で感じる日々でした。ものづくりの楽しさ、醍醐味を知ったら、もう後には戻れません(笑)。2015年に『Kocri』をリリースして以来、毎年新しい商品を発信するようになっています」
横長な黒板に映写するプロジェクター「ワイード」。音声認識技術を使い、授業中の先生の声をリアルタイムで書き起こし、総まとめプリントを自動生成してくれる授業AIアシスタント「Josyu」。黒板を媒体に、さまざまなデジタルツールをかけ算していく、サカワ流のサービスが次々に誕生した。
100年企業でありながらフットワークが軽く、新しい機器を開発、ツールもマッチングさせていく。そんな指針に共鳴する若きメンバーが続々加入し、会社自体も新しく生まれ変わったという。
「僕が入社した2009年は社員が15名程度でしたが、現在は30名に増え、愛媛本社の製造部門 、営業・サポート部門、そして東京支店のクリエイティブ・営業部門で働いています。平均年齢は32歳ぐらいでしょうか。電子黒板やアプリなどのICT教育に力を入れ出してから、開発の仕方、組織のあり方もダイナミックに変わってきました。変化のスピードが上がる中で、その変化自体を楽しめる新しい人材が次々に入ってきましたね」
Kocriが注目を浴び、新商品開発を発信する基盤を作ったことが評価され、2018年11月に代表取締役に就任した坂和氏。3代目の祖母から4代目社長を承継し、「次の100年」を展望する。
社長就任後は新たなビジネスアイデアを練り、社内の仕組みづくりに注力する。プロジェクションマッピングやAIに続き、黒板にVRをかけ算するなど、現在も画期的な商品開発に取り組んでいるという。
意欲あるメンバーが新しい製品やサービスを常に考え、具現化させる運動体として、そのスピードをさらに加速させていくサカワ。先祖が構築した“黒板づくり”という資産を、新時代の技術と融合させ、「楽しい仕事」として世間に発信し続けていく。
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