父が築き守ってきたプロテック 「人のために」の理念を貫きたい プロテック株式会社 代表取締役 小松 麻衣氏
- 40-50代
- 北海道・東北
- 女性経営者
- 後継者
女性(娘や義理の娘)が中小企業のアトツギになるケースも、近年少しずつ増えてきている。ただ、「家業と、恋愛・結婚・出産の並行に不安がいっぱい…」「アトツギが女性であることに、周りの社員の反応はどうなんだろう…」とアトツギ娘ならではの悩みや葛藤は尽きない。
今回は、一般社団法人ベンチャー型事業承継が運営するオンラインコミュニティ「アトツギU34」のメンバーから、三者三様のキャリアを歩む3人に、キャリアデザインや人生設計、自分らしさを生かした経営や事業への挑戦について語ってもらった。
大学卒業後、ファストファッションからラグジュアリーブランドまで、さまざまなブランドで販売業務を経験した後、ミセス婦人服メーカーの家業に2016年に入社。現在は人事労務、経理などの事務的な仕事から、商品企画まで幅広く業務に携わっている。また自身がバレエをしていた経験を活かし、バレリーナやバレエ好きな人向けに新ブランド「プリマクア」を立ち上げる。2020年、新型コロナウイルスによるマスク不足の際は「バレリーナも大絶賛!」のキャッチコピーで接触冷感マスクを販売したところ、同社で過去最高の販売枚数となる大ヒットを実現した。
大学卒業後、大手物流会社に就職。その後ベンチャー企業の営業を経て、28歳の時に留学経験を活かしてインバウンド向けの宿泊施設の運営会社を設立。自身の会社を経営する傍ら、三軒茶屋にある不動産会社を経営している高齢の父の跡を継げるのは自分しかいないと思い、2019年から本格的に事業承継を考え始める。2019年に初めて受けた宅建試験、賃貸不動産経営管理士試験に合格。着々と承継する準備を進めている。
大学卒業後、アルバイト先の飲食店へ就職。京都の経営者が通うカウンターで夜な夜なお酒を注ぎ続けていた。2013年、常連客の一人だった現夫と結婚し藤沢製本へ入社。当初は経理や総務を担当しながら、2児を出産。2020年11月、会社の永続的な発展のためにと一念発起。本来のアトツギである夫を差し置いて後継者に立候補し、代表就任。その後、toB向け新規事業やtoC向け自社ブランド「テキトーフォーミー」を立ち上げ、社内労働環境の整備・基幹システム導入など社内外で爆走中。ニックネームは「よめさん」。
吉岡:私は28歳の時に個人でインバウンド向けの宿泊施設の運営会社を起業しました。その後に家業である三軒茶屋の不動産会社にも入って、事業承継の準備中です。起業後に家業を継ぐという、珍しいパターンかもしれません。今日はよろしくお願いします。
水本:家業は創業69年のアパレルメーカーで、婦人服の企画、製造、卸売や直営店の展開をしています。祖父が創業して、現在は父が社長を務めていますが、私は三代目の予定です。よろしくお願いします。
藤澤(よめ):藤澤佳織ですが「よめさん」と呼んでください(笑)。私は滋賀県大津市にある、創業50年の製本業を営む会社に嫁ぎました。夫を差し置いて後継者に立候補し、今は義理の父と共同代表を務めています。私もわりと珍しいパターンかもしれません(笑)。今日はよろしくお願いします。
水本:お洋服が好きだったので前職もアパレル関係の会社に就職しました。父である社長には家業を継いでほしいと頼まれたことはありませんでしたが、私しか引き継ぐ人いないな~と学生時代からぼんやり意識していました。就職して3年たったころ、戻るなら早いほうがいいと思って自らの意思で戻りました。
今は取締役として人事労務や経理などの事務的な仕事から、商品企画まで幅広い業務に携わっています。
藤澤(よめ):私は今32歳ですが、夫と24歳で結婚して、25歳で1人目を、29歳で2人目を出産しました。そもそも夫の家業を継ぐなんて考えてなくて。結婚したときに「経理はやってほしい」と言われてたから、義理の母がやっている経理を手伝っていたんです。
ただ、会社の状況を見ていて「どうにかせなあかんな」と思って、共同代表に立候補しちゃいました。キャリアデザインやライフデザインなんて正直何も考えてなくて、流れるがまま今にたどり着いた感じです(笑)
吉岡:私はもともと物流会社やベンチャー企業で働いていました。子どもの頃から、父が自営業だからこそ、時間の融通が利いて家族にたっぷり時間をつかってくれていたので、その姿に憧れて起業したんです。
アトツギになろうと決めたのは、私は三姉妹の真ん中だけど、姉が小学校の先生で妹が保育士なので、「自分しか後継者はいない」と思ったから。組織のゴタゴタがあって、会社を立て直さないといけなくなり、2019年に家業に入りました。同じ年の年末にサラリーマンの夫と結婚したんですが、いずれ子どもが欲しいので、トップダウンではなく社員が主体的に動く組織を作って、子育てをしながら仕事ができる環境を準備しているところです。
水本:夫は、吉岡さんの家業にはノータッチなんですか?
吉岡:「一応、将来のために」と宅建の試験は受けようとしてくれてますが、今はノータッチです。私の希望としては、家業の外で稼いできてほしいんですよね(笑)。もし主人の会社が副業OKとなったら、いずれ役員を兼任してもらおうとは考えていますが、サラリーマンは続けてほしいなと。
藤澤(よめ):ちなみに、独身のアトツギ娘の中には、家業と恋愛、家業と結婚で結構悩んでる子が多いって聞きますよね。皆さんはそういったジレンマってありましたか?
水本:独身アトツギの代表で来ている私から言わせていただくと(笑)、独身のアトツギ娘で集まったときに「家業が足かせになって、恋愛や結婚がうまくいかないね」って話はよく出ますね。まず、お付き合いする段階で家業の存在を話すべきかどうか、みたいな話題になることもあります(笑)。
藤澤(よめ):へえ…!
水本:相手に伝えた時の反応で、その人との未来が描けるかどうかが決まってしまうから、慎重になっちゃうんですよね。私の場合、過去に家業のことを伝えたうえで付き合ったのに、最終的に家業を理由に別れを告げられたこともあって。
藤澤(よめ)、吉岡:ひどい!
水本:「わかってたくせに!」って言いたくなりましたけど(笑)。でも、やっぱり私は家業の存在を伝えて、理解してくれる人と一緒になりたいですね。
吉岡:私の場合、アトツギでマイナスに捉えられたことは一度も無くて。むしろ、「逆玉の輿じゃん!」って思われることが正直多かったですね(笑)。「自営業=お金持ってる」みたいな、世間一般の浅はかなイメージを抱かれて(笑)。
藤澤(よめ):わかる!私も浅はかな気持ちで嫁いだから(笑)。
吉岡:私の夫は商社マンなので、海外勤務があるかもしれないんです。でも、もし海外移住することになっても、3カ月に1回私が帰国して会社が回るような形にすればいいかなと。
仕事と家庭は両立できると考えてるし、アトツギであることは私自身の一部なので、隠す必要は無いなとずっと思ってました。やっぱり、自分をまるごと好きになってもらいたいですよね。
藤澤(よめ):私は、アトツギになる予定だった夫の元に嫁いだんですけど、今思えば「この人と結婚したら面白そうだな」って気持ちがあったと思うんです。「藤沢製本の嫁になったら、私の人生がなんか面白くなりそう」って。
水本:よめさんはもともと会社経営に関わりたいって気持ちもあったのかもしれないですね。
藤澤(よめ):今思えば、確かにそうかも。「経理をやってね」って言われてたこともあって、専業主婦になる気はまったく無かったなあ。
吉岡:ちなみに、よめさんはどんな経緯で共同代表になったんですか?
藤澤(よめ):主人は今48歳で、もう20年くらい家業の専務を務めてるんですけど、去年の9月くらいに「私が社長やった方がいいんじゃないかな。どう思う?」って夫に聞いたんですよ。そしたら、「俺もそう考えててん!お前が社長の方がいい!」って言われて(笑)
水本:面白い夫ですね(笑)。
藤澤(よめ):いや、たぶん自分がやりたくないだけなんですけどね(笑)。
義理の両親に「私が代表やっていいですか?」って聞いたときも、義母も「かおちゃんがそう言ってくれるなら、ありがたい話やわ」みたいな感じで受け入れてくれて。スムーズに決まりました(笑)。
水本:円満でいいですね!奥さんが社長で夫が専務とかになるケースも増えてるみたいですけど、会社も家庭も円満であり続けるためにはバランスが難しそう…。
吉岡:確かに。あと、不動産業はまだ男性のイメージが強いのか、直接ではないけれど、銀行の人から「後継者が女社長だとなあ…」と落胆する感じで言われることはあります。だから、夫に少しでも会社に関与してもらったりした方が、対外的な見え方は良くなるのかなと思うことは正直ありますね。
藤澤(よめ):私も銀行に対しては、「今は私がピンチヒッター的な役割で、経営立て直しのために代表権を貰ってやってます。落ち着いたら、専務(夫)が事業承継の段取りを行います」と話してます。対外的に、夫が代表の方が都合良ければ、夫が代表になる可能性もあって。会社にとって一番いい決断をすればいいと思っていて、そこは流動的ですね。
水本:うちの会社で働く販売スタッフは、母世代や祖母世代の方が多いので、最初から可愛がってもらいました。販売スタッフは聞いてほしいことがたくさんあるけど、営業の男性社員に話してもいまいち反応がよくないらしく、「ちゃんと聞いてんの?」ってことがよくあるみたい。私は当初から、話をちゃんと聞くように心がけていたので「やっぱり女性に話すのがいいわ!」って感じで信頼してくれてました。女性ならではのきめ細やかさや、寄り添う姿勢は、武器になるかもしれないですね。
吉岡:なるほど。男性社員の方からは何も言われなかったですか?
水本:父と同年代の男性が多いのもあって、見守ってくれる感じでしたね。ただ、頼りにされているかというと、どうだろう・・・
入社1年目に私が仕事で失敗した時も、周りが遠慮して強く叱れないみたいなことがあったんです。父にも「お前が息子やったら、怒鳴ってたし、もっとキツく指導してただろう」って言われて・・・女だから大目にみてもらってることに、その時はモヤモヤしましたね。
藤澤(よめ):女性ゆえに得してることに見えるかもしれないけど、経営者になっていく立場の本人としてはモヤモヤしますよね。
水本:直接は言われないけれど、「この娘大丈夫か?」と思ってる人もいるでしょうし。でも、私はもともと「周りにどう思われてもいいや」と思うタイプで。全員が自分のやることを好意的に思うなんてことはありえないので・・・私の代わりはいないからこそ、淡々とやるしかないって感じですね。
藤澤(よめ):私が家業に入ったときは、製本現場にいるのが全員おじちゃんで。事務所では義母が1人で経理をやっていました。そこに私みたいな謎の若い娘が入ったもんだから、最初は挨拶もしてくれなかったですね。現場の人と喋る機会が無く、現場の状況が一切わからない期間が5年くらい続きました。
吉岡:そこから、どんな転機があったんですか?
藤澤(よめ):義理の母が入院するタイミングで、経理業務が私にすべて任されるようになったんです。そこから、私も周りに遠慮せず、現場にがんがん入っていくようになって。夫と一緒に採用面接にも参加して、現場初の女性社員を採用したんです。その方が現場に入ってから、びっくりするくらい現場の雰囲気が明るくなって。手応えを感じたので、そこから女性社員を増やして、今では男女比率が半々くらいになりました。今は、工場長が2年目の若い女の子に怒られてますけど、工場長も「そんなん言わんといてやー」って、まんざらでもない感じで楽しそうにやってます(笑)。
水本:女性が1人入るだけで、そんなに変わるものなんですね!
吉岡:うちの社員は、創業時から働いている、私の小さい頃を知ってる方がほとんどなので、アットホームな雰囲気だと思います。ただ、会社の調和を乱す社員やちゃんと仕事をしていない社員もいたので、彼らには辞めてもらいました。よめさんと同じように、私も主体的に採用活動に関わって、自分と一緒に会社を作っていってくれる方を採用し始めてから、会社の風向きが良い方に変化したと思ってます。就業規則をちゃんと作ったり、強制的にリモートワークを推進したりと、自分が得意なことや時代に合わせてすべきことをどんどんやっています。変化に抵抗がある社員もいますが、強制的に始めると慣れてくれましたね(笑)。
水本:自分で起業した会社と家業とでは、経営に携わるうえでの姿勢も違うんですか?
吉岡:自分の会社の方は、“子どもができても女性がバランスよく働ける会社”をテーマにしていたので、もともと大きくする気はなくて、スタッフもリモートで働く台湾の方人だけなので、ゆるりとしているんです。一方で家業には社員がいて、固定のお給料を支払わなければいけないなど「企業色」が強いので、家業に入社して初めて経営の難しさを実感しました。
藤澤(よめ):でも、吉岡さんが起業した民泊ビジネスと家業の不動産業って、シナジーが生み出せそうですよね。
吉岡:以前は民泊にちゃんとした法律が無くてイメージが悪かったので、「家業と一緒にしてしまうと、家業のブランド価値も下がってしまう」と思って別々に捉えていたんです。ただ、今は法律もできて整備されてきたので、大家さんから「うちの古い物件を使ってほしい」というような相談があれば、私の会社で運営することができるかなと思ってます。
水本:私はバレエ経験を生かして、バレリーナやバレエ好きな人向けの「プリマクア」( https://primaqua-ballet.com/ )という新ブランドを立ち上げました。家業がアパレルメーカーだからこその体制を活用して、ミセス婦人服以外にニッチな分野を攻めようと思って。現役でバレエをしている妹のネットワークを生かして販路を拡大したり、Instagramで発信したりしていて、今はECで販売しています。
吉岡:うちの会社でも今SNSに力を入れていて、「物件の内見が大好きな26歳のOLが、イトーハウジングの物件を内見しまくる」というテーマでTikTok( www.tiktok.com/@itohousing )を始めたんです。少しずつフォロワーも増えてきました。
藤澤(よめ):SNSを活用した取り組みは、私たち世代だからこそ武器にできることですよね。私も、「テキトーフォーミー」( https://kabao.jp/ )というライフスタイルブランドを立ち上げました。第一弾のプロダクトとしては、製本屋らしくノートを販売しました。初めてギフトショーにも出展して、私が広告塔になってPRしてます。このブランドで、私の生き方も強く打ち出していきたいですね。
水本:既存事業の市場は今後どうなっていくのか想像できない部分もあります。私自身、もともと服が好きで家業にもどったので、最初は婦人服以外の仕事は考えていませんでした。だけど、家業に入って6年目の今は、既存事業を大切にしながら変化することや、家業の資源を活かして新しい事業を展開することはとても大切だと思っています。今は本社ビルを有効活用して、アパレル向けの撮影スタジオを作りたいなと考えているところです。
藤澤(よめ):これからどんどん会社を良くしたい気持ちと同時に、私の生き方がもっと世の中に浸透したらいいなって思ってるんです。だから、Twitterでも「中小企業のよめ」と名乗って発信してるんですけど。家業を持つ夫の元に嫁いだら、女性はいろんな理不尽を強いられて大変!みたいなイメージってまだあると思うんです。
実際、義母は従業員のために夜食を出したり、臨月でも作業場から離れられなかったりしたみたいですし。でも、私は「社長のよめって面白いよ」と発信したくて。たとえば今の中高生の女の子が、キャリアの選択肢の一つとして、「経営者の家に嫁ぐ」ことを考えられるようになったらいいな、なんて思ってるんです。
吉岡:夫の家業に入って新しいチャレンジをしたり、よめさんのように経営に関わったりすることに、興味を持てる子を増やしていきたいってことですよね。新しい発想で面白いし、今後どんどんよめさんがそのロールモデルになっていきそうですね。
吉岡:私は、事業が発展するうえで、他社と競い合うよりも共存し合うことが大事だと思ってるんです。だから、家業の不動産会社がある三軒茶屋という街の、飲食店やスポーツジムとコラボしていきたいなと考えてます。たとえば「うちの物件に入居してくれたら、三軒茶屋のお店で少しお得に食事ができる」とか。託児所やベビーシッターのような事業を絡ませて、「内見中や契約手続き中は子どもを預かることができる」とか。そういうことが出来たら面白そうだなと。街と一緒に成長していけたらいいなと思ってるんです。
水本:三者三様の未来があって面白いですね。ここで出会ったのもご縁なので同じアトツギ娘として、今後もどうぞよろしくお願いします。
藤澤(よめ)、吉岡:もちろん!これからもよろしくお願いします!
※アトツギU34はアトツギファーストに生まれ変わりました。
お客さまの声をお聞かせください。
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