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事業承継

「会社を支える、社長の勘や記憶という財産。それを誰もがわかるようデータ化したい」

玉川製菓株式会社 玉川 真奈美 氏

  • 卸売小売業
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  • 女性経営者
  • 後継者

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『ヒストリーブック』を媒介として、経営者と次の承継者が思いを伝えあう企画の後編です。父である昌一氏の会社や人を大切にする経営やせんべいへの思いを読み終えた玉川真奈美氏。一緒に海外旅行に行くほど仲がよい関係なので、言いたいことは言い合ってきたつもりでしたが、「そんなことを考えていたの」というところもあったといいます。

家業に入って5年となる今。改めて事業承継する気持ちや会社経営について考え、親子でこれからの会社について話をしていただきました。

(※)The History Book(ヒストリーブック):社長の『考え方』『生き方』『あり方』を言語化し、財産とともに後継者が受け継いでいけるようお役立ていただけるツール。具体的には、会社の理念、歴史、直近の経営・財務状況、事業承継計画、重要な取引先等の連絡先、家族へのメッセージ、加入している保険の情報などを記入できます。事業承継予定の有無にかかわらず、経営者には必ずもっていただきたい1冊。エヌエヌ生命が制作。

The History Book(ヒストリーブック)



玉川製菓株式会社

強引に会社に入ってみたものの
自分の存在価値に悩み続けた

玉川製菓株式会社

玉川真奈美氏は、京都の大学を卒業後、渡米しアパレル関係の会社で4年働いた。帰国後は商社に籍を置き、仕事にも給与にも満足しながら、海外出張もこなしていた。

「7年目に入り仕事がルーティン化してきて、なにか違うことをやりたくなったんです」

 

兄が病弱だったため、大学を卒業するころから将来は自分が後を継ぐのだろうなとは考えていた。

「昔からよく、『商売人の娘だよね』と言われるんです。教えられたわけではないけど、これを売ったらどれだけ利益になるみたいなことを無意識に考えています」

 

父に直談判し、半ば強引に玉川製菓に入社させてもらうことにした。

「まだ商社にいなさいと父に言われたのですが、事業承継するにしたって10年はかかるだろうし、今しかないと思い切りました」

 

しかし、入ってみると周囲で働く人はベテランの年長者ばかり。孤独を感じることもあったという。

「商社では自分の仕事や給与が守られたものだったのだと実感しました。ここでは、一から自分で考えて、仕事や利益を出していかないといけない。稼がないと私のお給料だって出ないのに、無駄に時間を過ごしている気がして、ここに私がいる意味があるのかなと悩みました」

 

相談できる人もいない中、跡取り娘.comや昭和女子大学キャリアカレッジの“跡取り娘”人材育成コースに参加した。

「そして、跡取り娘って結局は経営者だよねと気が付きました。それからは税理士さんや経営に興味ある友達などと話をするようになりました。経営者とのネットワークも築いていきたいし、学びも深めていきたい」

社長の仕入れや値付けの勘どころは
なかなか簡単には、引き継げない

玉川製菓株式会社

それでも、会社のホームページをリニューアルしたり、ECサイトを立ち上げたりと自分のできることで会社の売り上げに貢献してきた。

「3年前に長年経理をやってくれていた方が辞められて、私が担当することになりました。そこから覚悟ができました。友人からもスイッチが入ったねって言われたり、パートさんからも最近楽しそうだって言われます」

 

今では、銀行との借入交渉も、税理士との決算業務もすべて真奈美氏が担当している。

「自社のキャッシュフローの実状や毎月の収支の実態を知っておののきました。なんとかしないとって。だから経費を見直したりして、利益が出るとうれしいですね。そうして出せた利益は私たちのものじゃないんです。スタッフが頑張って売ってくれたんだから、無駄遣いはできませんよ」

玉川製菓株式会社

真奈美氏はもっと仕入れや作業をデータに落とし、誰でもできるように効率化をしたいと考えている

「社長の勘や記憶でしかわからないところが半分くらいあるんです。例えばコロナで社長が2週間会社に来られなくなったら、仕事が全部止まってしまう」

 

その日にだれがどれを袋詰めにするなどの作業工程は玉川社長の頭の中にある。在庫がある場所やその量も把握しているので、発注もすべて社長の”勘ピューター”頼みだ。

「在庫という言葉が地雷ですね。本人もどうにかしなきゃとは思っているらしいのですが、最後は意地の張り合い。でも60年培ってきた商売の勘は、言語化できないし、なかなか私には引き継げないんです」

 

先日も社長が考え、パッケージを個包装にし商品化したおせんべいがヒット商品になった。

「地味なおせんべいなんですよ。これ売れるのかなって思っていたら、長年の勘で売れるものがわかるんでしょうね。お彼岸のセールで一番売れました」

 

しかも値付けも優れている。

「決算のときに税理士さんが、数字を追いかけて見ているわけではないのに、値付けが絶妙だというんです。私にはそれができないから、でた数字をしっかりと見て分析しながら後追いしてる。そこも社長にしかできませんね」

一人ですべて決めてきた
その精神力を私も学びたい

玉川製菓株式会社 玉川 真奈美 氏

改めて事業承継について、「ヒストリーブック」を媒介にして、それぞれ考えたお2人に感想を聞いてみた。

 

玉川氏 私は人づきあいが下手なのですが、真奈美は本当にうまい。そのあたりが天才的だなって思ってるんですよ。だからむしろ私より商売に向いているんじゃないかと思っている。でもね、商売って積極的にやればいいってものでもない。駆け引きがあるからね。

 

真奈美氏 駆け引きしているの?

 

玉川氏 それはあるでしょうよ。いろいろな駆け引きがありますよ。商売には。お客さんとも仕入れ先とも関係性をよくしていこうっていうやりとりも含めてさ。

 

真奈美氏 家業に入ってみて、すごいなと思ったのは、そういうこと含めて父は全部、1人でやってきたんだってこと。右腕がいないままずっと1人で、卸から小売りに変わる決断や、銀行からの借入れもしていたんだね。店でせんべいが1枚も売れない日があったなんて話、全然知らなかったよ。

 

玉川氏 商売のことだけ、必死にやってきたからね。家では話さなかった。

 

真奈美氏 そんなことも知らないで、京都だ、アメリカだってよく私を出してもらえたなと今更ながら、感謝しています。

 

玉川氏 安定した会社を作りたいから常に努力して、上へ上へっていつも頭の中で思いながら走り続けてきたからね。

 

真奈美氏 それを自分1人で耐えてきた精神力は本当にすごい。従業員が辞めてしまう場面も何百人って経験してきてると思う。私なんか、1人辞めただけで、あんなに教えたのにって落ち込んだのに。

 

玉川氏 長く働いてもらうことは、会社にとってすごくプラスだからね。だから常にいろいろな部門に目を配ることが大事なんじゃないかな。全体を見るってことです。でも、今後もっと大きくなったら、私の目の届かないことが出てくるし、今の私のやり方じゃ難しくなるような気がする。

 

真奈美氏 新しいことにも感度が高いし、取り入れるのが早いから大丈夫じゃないかな。エアレジやクラウド、ECサイトの改善なんかもどんどん取り入れてよいって言ってくれたじゃない。それとも規模の問題?

 

玉川氏 販売目標をつけたり、年間計画を立てて、計算して仕入れないとうまくいかないんじゃないかな?

 

真奈美氏 わかってたの!?安心しました。(笑)

 

玉川氏 わかってるけど、そうする暇が今までなかったの。これからも真奈美には、今の倹約精神をずっと続けていってほしいね。それをやっているうちは大丈夫。自然と会社も成長するよ。

 

真奈美氏 あと30年は健康でがんばってくださいね。

 

玉川氏 お客さまに喜ばれて、なおかつ利益のでるおせんべいをずっと考えていきたいね。

玉川製菓株式会社


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