父が築き守ってきたプロテック 「人のために」の理念を貫きたい プロテック株式会社 代表取締役 小松 麻衣氏
- 40-50代
- 北海道・東北
- 女性経営者
- 後継者
(左より)石見麦酒工場長 山口厳雄、協同商事代表取締役社長 朝霧重治
なぜクラフトビールなのか。ポスト大量消費の時代、ものづくりの困難を乗り越え、共通の答えに行き着いた家業継承者たちが、事業継承のサポートに力を入れるエヌエヌ生命保険のファシリテーションで語り合った。
90年代後半に流行した地ビール。国の政策で観光土産というレッテルがつき、苦境に陥った自社ビールを、コエドブルワリーの朝霧重治は大胆なブランディングで一新させた。
日本のクラフトビールの先駆となったコエドビールは、数多くの世界的ビールコンテストで受賞。母体の協同商事は今年、Forbes JAPANのスモール・ジャイアンツアワードで大賞に輝いた。
一方、石見麦酒の山口厳雄は、島根県江津市でポリ袋を用いたビールの醸造法を開発し、小規模で多様なクラフトビールを製造・販売する。家業の木工業を生かして、マイクロブルワリー設備を提供するビジネスにもつなげた。
同社もまたスモール・ジャイアンツ アワードで選出された1社。情熱をもって革新的な取り組みを進める中小企業に贈られるエヌエヌ生命保険特別賞を受賞した。家業と向き合った末、クラフトビールへとたどり着いたふたりの経営者がそれぞれの道のりを明かした。
朝霧重治(以下、朝霧):協同商事は、妻の両親が起ち上げた会社です。私自身は、幼少期から宿命的に家業を見てきたわけではありませんが、根っこにある自社の存在意義というものは継いでいかねばと感じています。当社のベースは、有機農業です。化学物質の環境や人体への影響が危惧されるようになった1970年代、新しい農業を切り開いていくために創業しました。環境に優しく、使い捨てにしないということは、会社として大事にしてきた理念。ビールづくりもその一環にあるのです。
川越の農業では、緑肥として麦を植えるのですが、畑に鋤き込むだけではもったいない。それをビールの原料にできないものかと、ビール事業を始めました。
山口厳雄(以下、山口):私は家具メーカーの3代目で、祖父は職人で発明家でもありました。父も職人で、木目家具の中身を空洞にして軽量化させたりするのを見て育ったので、ものづくりとは、世の中で新しいものやサービスをつくって皆を驚かせることだ、と思うようになったのです。家業を継いで、当初は家具づくりを守ることばかり考えていました。いまなら新しいものを展開すれば、家業の可能性を広げる新たな市場が生まれる、という発想になる。でも当時は迷走し、次のステップを模索していました。転機となったのは、偶然聞いたクラフトビールの講演。私の夢は日本酒づくりなのですが、これなら醸造をより身近に行うシステムがつくれ、家業にも結び付けられる、と目の前がパッと開けたのです。
朝霧:勇気ある撤退、というのはありますよね。私もビール事業の抜本的な見直しをしていくなかで、一旦すべてを止めることにしたのです。全商品終売にしたら売上がゼロになるので、チャレンジングではあるし、それで再生できるかどうかも定かじゃない。当時は小規模醸造界がネガティブに捉えられていて、ビールの個性や豊かな世界を求めるという楽しみ方も、日本にはまだなかった。ただ自分のなかでは、海外でのビール体験が原風景としてあったので、手づくりのビールのよさをともかく丁寧に伝えていこうと。新しいブランドをつくって、新規出発しようと決心したのです。
山口:我々がいまクラフトビールで新たに操業できるのも、その時代からやってこられた方々のおかげだとつくづく感じます。そもそも私は、ビールの製造設備を家業のオプションに加えたくて、ならばその設備でおいしいビールがつくれることを示さねば、ということで始めました。既存の事業もあるので、さらにビールづくりも行うとなると、家族総出です。でも、できることをアピールすれば、家族経営でこれからクラフトビールをやってみたい方に挑戦していただけるのではないかと思ったのです。
朝霧:大量生産で効率のよいものづくりが飽和しつつあるなか、逆に非効率な手仕事の小さなものづくりこそ、先進国では価値を生むようになる。そんな考え方を、先代の時代からもち続けてきました。例えば、フランス産の牛乳を日本で飲む機会はなくても、カマンベールやブリーは喜んで食べますよね。しかもチーズづくりの名人が、小規模生産でつくったものともなれば、なおさら皆目が輝いてしまう。ワインもスコッチも、そういう世界なわけです。職人道を極めた家内制手工業をやっていけば、プレミアムな食品づくりへの認知が広まっていく。コエドビールも、実はそうした位置付けでやっているのです。じっくりとつくられた、まさにクラフトな世界を楽しんでいただきたい、という思いがあります。
山口:昔はタンスでも、同じものを大量につくっていましたが、徐々にそうしたマーケットはなくなっていきました。ラインに乗せて家具をつくる機械は取っ払ってしまって、いまは一点ものばかりです。例えば私の代に始めた養蜂箱は、蜂の飛ばし方や捕殺の仕方など、農家の方たちのオーダーに合わせて、一個ずつ製作しています。精密に箱をつくる技術というのは、これまでと変わらず、家業の要ですね。
朝霧:職人がつくった質のよいものは、次の世代まで使えるので、新たに買う必要がなくなります。所得が大きく増えていく時代ではないから、浪費型から、ものを大事にするというふうに変わっていかざるを得ない。生活は、また本質的なものに戻っていくのではないでしょうか。
山口:江津には頑張っている町工場の2代目や3代目がいて、小さなコミュニティなので、その方々とものすごくスピーディーにビジネスができる。おかげで木工よりも、醸造機械の販売量のほうが増えているほどです。新事業のこうした展開が可能なのは、地域の恩恵ですね。
朝霧:これまで中小企業というと、人もお金も情報もない可哀想な存在のように扱われることが社会的にありました。けれどもプロジェクトの目的や存在意義といったものを共有し、社内だけでなく、社外のリソースもうまく組み合わせることができれば、小さな組織でもイノベーションを起こしていける。我々の場合、ビールの素晴らしさを伝えていくプロジェクトに、デザイナーであったり、当社にはない職能の方たちにもチームに入ってもらい、楽しみながらやっています。
山口:うちのビール工場では、地元農家がもち込んだ原料はすべて買い取っています。そうやって農家さんたちとつながれるのは本当に嬉しいことですね。
山口厳雄(やまぐち・いつお)◎1977年広島県生まれ。大手味噌メーカーにて食品開発に従事した後、2006年に家業の木工会社を継ぐ。15年に夫婦で石見麦酒を設立。現同工場長。
朝霧重治(あさぎり・しげはる)◎1973年埼玉県生まれ。三菱重工業を経て98年、妻の両親が創業した埼玉県川越市の協同商事に入社。2003年に副社長就任。09年より代表取締役社長。
「エヌエヌ生命は、中小企業サポーターです」
「家業イノベーション・アイデアソン」の様子。
全5回にわたって、研究都市・茨城県つくば市の技術力を生かして家業の課題解決を試みたエヌエヌ生命保険では、保険商品やサービスの開発に加え、家業の次世代経営者の育成を支援する「家業・イノベーション・ラボ」を展開している。同ラボは、「家業」+「自分らしさ」で家業のスケールアップに挑む家業イノベーター(次世代経営者)たちの学びと実践のためのコミュニティ。さまざまなプログラムやセミナー、ワークショップを通じて、家業を継いだ人、継ぐ人たちが出会い、つながる機会を支援している。今後、地域の事業承継を学ぶ「家業イノベーションツアー」や、家業後継者の課題解決のための企画を考え、長期的に練り上げる「家業イノベーション・アイデアソン」を実施予定。
家業イノベーション・ラボはこちらから
この記事は、ForbesJAPAN BrandVoice(2020/04/23掲載)の転載記事です 。
「家業イノベーション・ラボ」の企画については、内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。
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