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オランダスタディツアー2023レポート
〜デザイン性の高さとは?世界幸福度の高いデザイン先進国・オランダで学ぶ、人にも環境にも優しい企業のあり方〜

「次世代への支援」活動の一環として、2023年9月に家業後継者や若手経営者を対象とした「オランダスタディツアー2023」が実施されました。国民1人当たり国内総生産(GDP)だけでなく、国民の幸福度を示す世界幸福度も高い国として知られるオランダに親会社をもつエヌエヌ生命が、ヨーロッパでの市場開拓に関心をもつ参加者に新たな学びとネットワークを提供することを目的としたこのツアーで、参加者たちはどんなことを感じ、何を学んだのでしょう。

文:桑原果林、写真:大谷臣史

オランダスタディツアー2023の写真

【ツアー1日目】

ツアー初日は、まず国会議事堂や各国の大使館、国際司法裁判所などが置かれているデン・ハーグに向かい、NNグループ本社を訪問しました。参加者たちが訪れたのは、サステナビリティとサーキュラリティ(循環)がテーマとなった、オフィス内のイベントスペースです。環境への負荷が少ない素材・食材の展示や、LED照明で野菜を育てる栽培装置など、情報発信や実験的な取り組みが行われるこの場所は、イベント会場として機能するだけでなく、サステナビリティとサーキュラリティに関する学びの場となっています。

写真)菌糸体やフルーツレザー(果物を原料とするフェイクレザー)など、環境に優しいさまざまなマテリアルを紹介

同じ階にあるオフィスも見学し、ABW(Activity Based Working:仕事内容に合わせて自由に場所を選べる働き方)を可能にする職場空間を目の当たりにしました。NNグループでは「働き方もサステナビリティの要素である」ということを意識し、従業員の発想力を刺激するような快適な職場空間づくりを進めています。一つ一つ雰囲気やレイアウトの異なる空間から、従業員は目的や気分に合わせて働く場所を選ぶことができます。

写真)ABWを可能にするオフィス空間のインテリアには、なるべく国産のリサイクルまたはアップサイクル商品を使用

写真)Tシャツで作られたアート作品には、ブランドプロミスである「You Matter」(あなたの”大切なもの”を共に守ります)の文字

オフィス見学の後は、サステナビリティ部門の最高責任者を務めるアドリー・ハインスブルックさんとサステナビリティ・アドバイザーのメノ・ファン・レーウェンさんより、NNグループのサステナビリティに関するビジョンや取り組みについて説明を受けました。

オランダスタディツアー2023

その中に出てきたのが「オーバーシュート・デイ」と呼ばれるもので、これは地球が1年間に生み出す生物資源を、人類がその年に使い果たしてしまう日を指しています。それによれば、オランダと日本は、それぞれ4月と5月に今年分の生物資源を早くも使い果たしてしまっているそうです。農業大国であるオランダでは、酪農や畜産に使用する土地の割合も大きく、それによる温室効果ガスの排出などがその原因として挙げられます。

ヨーロッパでは、消費者や企業のサステナビリティに対する意識がここ数年で変化していますが、特にオランダでは海抜の低い土地が多く、洪水のリスクが大きいこともあり、環境問題について真剣に考えなければならないという意識が強まっているとファン・レーウェンさんは言います。

写真)生ごみ、紙コップ、紙製品、プラスチック製パッケージ、ティッシュのリサイクル用分別箱

NNグループではクライメートプランと呼ばれる計画書を定期的にまとめ、組織としての地球環境保全における方針を明確にしています。その中で重要な取り組みとなっているのは、ポジティブな変化を促す保険を提供するとともに、損害を受けた時のサポートを向上させることです。

たとえばソーラーパネル付きの建物に保険をかけた場合、ソーラーパネルは保険の対象外であることが一般的ですが、あえてソーラーパネルも補償の対象とし、さらにはソーラーパネルが破損した場合、そこから発生する有害な破片の清掃も提供します。また損害を補償しなければならない時には、新品に取り替える代わりに修理を提案することで、まだ使える部分を残し、カーボンフットプリントの削減を目指しています。つまり環境問題に対する取り組みを顧客任せにするのではなく、自らサステナブルな活動を行うと同時に、顧客にとっても貢献しやすくなるような環境整備をしているのです。

NNグループではこのように、電気自動車やエネルギー貯蔵庫、木造の建物など、環境保全に貢献するものを保険で守らなければならないという考え方に転換しています。また、年次報告にもインパクトレポート(環境改善効果に関する報告)を取り入れ、サステナビリティに関する取り組みのための費用やメリットを明確にしています。オランダをはじめヨーロッパでは「なぜサステナビリティが必要なのか」を主張するのではなく、経済的な価値に加えて、環境のための付加価値を説明する必要がある、とファン・レーウェンさんは言います。

「たとえ社内で行動するのが一人であっても、サステナビリティによって経済的・社会的な変化をもたらしうる。会社の利益だけを追い求めるのではなく、人や環境が求めるものを考慮し、その全てが交わる接点を見つけることが大事」と話すハインスブルックさんは、保険がどうあるべきかを絶えず自問し、日頃からNNグループのあるべき姿を模索し続けています。

写真)クライメートプランの作成に関わるハインスブルックさん

プレゼンテーションの合間には、参加者たちもそれぞれのブランドについて説明を行いました。株式会社増田桐箱店の代表取締役を務める藤井博文さんは、成長が早いことからエコ・ウッドと称される桐を使用し、お菓子・お酒などのパッケージや収納具として箱製品を販売しています。「1個から10万個まで作れる」という強みを武器に、カルティエやルイ・ヴィトンなど、海外の有名ブランドからも発注を受けています。従来は捨てられてしまいがちな箱ですが、「箱こそを主役にしたい」という考えから、米びつの販売を始めました。また学校での「木育」の取り組みも行なっています。

昭和23年創業の和紙問屋の後継者として昨年家業を引き継いだ大上陽平さんは、国内向けの和紙の卸売販売と加工に携わっています。美濃和紙や土佐和紙など、日本各地の和紙を扱う株式会社オオウエは、封筒やレターセット、お菓子の包装紙なども手がけています。現在オランダ人デザイナーのメイ・エンゲルギールさんとの協業により開発している、レザーのような手漉き和紙のサンプルも披露しました。

モリタ株式会社代表取締役の近藤篤祐さんは、加工技術とデザイン性にこだわった紙箱を製作し、ハイエンド向けの箱としてMORITAブランドを日本全国に拡げています。MORITAの製品には、各種パックの印刷業者で出る端材と家庭パックごみのリサイクル素材が使用されています。リサイクル紙はコストがかかるため、その分価値の高いデザインの商品を生み出しているとのことで、アメリカのブルーボトルコーヒーからも発注を受けたことがあるそう。近藤さんは日本一価値の高い紙箱づくりを目指しています。

写真)シャープな見た目とピタッと気持ちよく閉まる実用性を実現する「Vカット」という製法を説明する近藤さん

100年続く早川しょうゆみそ株式会社の7代目の早川薫さんは、「伝統的な発酵商品が多数存在する中で、イノベーションが求められていると感じた」と話します。そこでたどり着いたのが、味噌パウダーのアイデアでした。水を使わずに味噌の味を出すことは難しいため、当初は無茶だと言われていたそうですが、早川さんは5年間独学で研究した結果、酵母が生きたままの粉末状の味噌の開発に成功しました。味噌汁だけでなく、さまざまなレシピにスパイスとして利用できるような商品で、国内のみならず国外にも販売を始めています。

もともとは日本史の教員という意外なバックグラウンドをもつ本間雅広さんは、北海道で65年続く家業の水産仲卸業者・一鱗共同水産の3代目後継者です。今年6月には「魚がいる未来を選びたい」というコンセプトのもと新事業を立ち上げ、ブルーカーボン(大気中から海の生態系に取り込まれる炭素)の活用や海洋プラスチック問題などに対する意識向上に取り組むと同時に、漁師や水産業の仕事の人気を高めるためのブランディングを行っています。世界で最も魚が減少している国と言われる日本の状況を改善すべく、漁師への教育に関わり、地元のテレビ局とも連携するなど、幅広い活動を行なっています。

それぞれのブランドの魅力や改善点などについてNNグループ側からもフィードバックがあり、「海外での自社商品の伝え方について知る良い機会になった」と参加者たちも満足した様子でした。NNグループと今後も情報交換や対話を続けていくことを約束し合い、参加者たちは本社を後にしました。

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その後、レンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」やフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」をはじめ、オランダを代表する名画を所蔵するNNグループがメインスポンサーをしているマウリッツハイス美術館を訪れ、オランダの歴史や宗教的背景などを絵画を通して学びました。

写真)黄金時代に描かれた数々の絵画からオランダ人のルーツを知ることができる

【ツアー2日目】

オランダ南部には、農業や食品化学などの分野で世界をリードするワーゲニンゲン大学(WUR:Wageningen University and Research)があります。WURは、1918年に正式に設立された後、国立教育機関であるワーゲニンゲン大学と研究所が統合し、2016年に教育研究機関としての現在の体制になりました。経済産業省から行政官長期在外研究員として派遣され、現在WURの大学院生として国際開発およびルーラル・イノベーション(地方におけるイノベーション)を学ぶ経済産業省の簑原悠太朗さんに、生の学生の声を聞かせていただきました。

オランダスタディツアー2023の写真

Forumと呼ばれる建物では、「学生さんがとにかく熱心に勉強している、居眠りしている学生は見たことがない」と簑原さんもおっしゃる通り、学生たちは意欲的に自習に取り組んでいる様子でした。

写真)大学院の学生は6割がオランダ人、4割が外国人ということで、授業は全部英語だそう

WURのキャンパスには企業もオフィスを構えており、まさに産学官の連携がキャンパス内で行われています。公園のような感覚で誰でも入ることができる、開放感のある敷地も印象的でした。キャンパスには世界各地の地層を収蔵している土壌ミュージアムWorld Soil Museumもあり、ここは研究や学習のために定期的に一般開放されています。

写真)開放的な敷地には、あちこちにアート作品が設置されている

次に訪れたのはPlus Ultra II(プラスウルトラ・ツー)という建物です。ベンチャー企業を中心に多数の企業のオフィスが入っていて、中には大学院生が立ち上げたスタートアップ企業もあります。カフェなどのフリースペースがあるので学生も立ち寄りやすく、物理的にも産学の距離が近いことが伺えます。「距離が近く、入りやすい。自然に新しいものが生まれやすいですね」と近藤さんも驚いた様子でした。

写真)オフィスを構えたり研究資金をサポートするなどして、多くの企業がPlus Ultra IIに関わっている

キャンパスを見学した後は、農研機構NARO開発戦略センターのオランダ研究拠点駐在員としてWURに在籍(取材当時)されていた後藤一寿さん、そして法律家として現在WURに留学されている片桐秀樹さんをお呼びし、キャンパス内でのランチにご参加いただきました。

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「オランダでの働き方を聞くことができたのは良い収穫だった」という参加者たちは、オランダ人の働き方を知り、各々にこれからの仕事のあり方について考えさせられたようです。水産仲卸業者の後継者である本間さんは、「日本人は無理をしてでも仕事を終わらせようとするが、オランダ人は無理せず翌日に持ち越す。経営者にとってはオランダの働き方はどうなのかな、と気になりましたが、やはりオランダのやり方にもデメリットはあるということを知ることができました。そういう不都合がわからないと、ただミーハーっぽく寄せることになってしまうので」と、両国の違いを客観的な視点で捉えていました。

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WURを後にした一行は、ティルブルフというオランダ南部の街にあるテキスタイルミュージアムに向かいました。ここでは、かつてブランケットの産地であったこの街の産業遺産だけでなく、テキスタイルデザインやファッション、アートの現代的なコレクションを展示しています。

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ガイドツアーでは、人力の時代から産業革命を経て水蒸気の時代、コンピューターの時代への移り変わりについて、実際に使用されていた機織り機や現代の織り機のデモンストレーションを交えながら、元機織り職人が説明してくれました。

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このミュージアムのユニークな特徴として、「テキスタイルラボ」と呼ばれるオープンスタジオがあります。ここには織り機、編み機、レーザーカッターなどの設備があり、学生やデザイナーなどが実際にテキスタイル製品を制作することができます。

写真)もともと工場として織り機が並んでいたスペースで、現在自社製品の生産が行なわれている

写真)実際に制作している様子を来場者も間近で見ることができる

このように作品を収蔵するだけでなく、新たなデザインの提案やクリエイターとの協力によりオランダのクリエイティブ業界に貢献しているところも、このミュージアムの大きな魅力です。多数のデザイナーやアーティストが手がけたタペストリーの収蔵作品もとても見応えがありました。

写真)カラフルで迫力のあるタペストリーコレクション

【ツアー3日目】

この日は、オランダ人が暮らしにどんなものを取り入れているのかを知るため、地元の大手スーパーや老舗デパートを訪れ、アムステルダムで市場調査を行いました。オランダでは近年、和食を筆頭に日本文化が注目され、日本を訪れる観光客も増えています。デパートには和食器や和食のレシピ本、スーパーには海苔やうどんなどの日本食材が並んでいます。どんな日本製品がオランダで受け入れられているのか、パッケージデザインやサイズ感なども含め、実際に目で確かめてみることができました。

次に、カカオ農家における児童労働や強制労働の撤廃を目指すという社会的なメッセージを掲げたチョコレートブランド、Tony’s Chocolonely(トニーズチョコロンリー)のショップに立ち寄りました。Tony’s Chocolonelyのカラフルなパッケージは非常にインパクトが強く、発売してから瞬く間に人気ブランドへと成長しています。「なにより商品として魅力的で、裏側で社会貢献をしているという印象」だと感嘆する大上さんは、社会的なメッセージの伝え方を参考にしていきたいと話しました。

オランダスタディツアー2023の写真
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「和紙をグローバルに売りたいという中で、受け入れられる方法を考えていた」という大上さんは、Time&Styleの商品に和紙製品づくりのヒントを得たようです。
「(Time&Styleの商品では)ヨーロッパ調にはせず、和紙の強みが活かされていました。オリエンタルを感じつつも、オランダ人の暮らしにも違和感のないソファや照明を提案しているのを見て、私にとっても自信になりました。PRの方法を変えていくだけで、もっと(良さが)伝わるのではないかと感じました。それを彼らは具現化していて、後押しされた気持ちです。」

2015年のオープン当初からアムステルダムの人気スポットとなっているのが、1901年に建てられたトラムの車庫を利用して作られた複合施設「De Hallen」(デ・ハレン)です。

写真)De Hallenはカフェやショップ、ホテル、フードコート、図書館、映画館、学校、ギャラリーなどを兼ねた複合施設

レールや車庫ならではの空間を活かし、古い建物の価値を尊重した設計が魅力となっています。複数のショップやサステナブルなホテル、世界中の料理を味わえるフードコート、図書館、美容師専門学校、精神病をもつ人のためのギャラリー、失業者を雇用する自転車修理店、フィルムスタジオなどがあり、施設内ではMaker Marketと呼ばれるクラフトマーケットやコンサート、アートの展示など、いつ来ても楽しい出会いや発見があります。年間13万人の来場者を記録する、まさにまちづくりの好例と呼べるこのスポットは、クリエイティビティを刺激するような、生き生きとした空気が感じられる場所です。

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その後、再開発地域の多いアムステルダムの北地区に移動し、造船所として使われていた汚染された土地をクリーンに再生させるという実験的な再開発プロジェクト「De Ceuvel」(デ・クーベル)を訪れました。

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このプロジェクトは、2012年に建築家グループがアムステルダム市主催のコンペを勝ち取ったことで始まりました。10年間の貸与を受けた後、「汚染された土を別の場所に移すのではなく、この場所で自ら解決しよう」と強い使命感に駆られた建築家、技術者、起業家からなるチームが力を合わせ、再開発を実現させました。

写真)廃材で作られた、廃材を集めるリサイクルステーション

敷地内には、タダ同然で買い取ったという古いボートがいくつも置いてあり、この一つひとつがオフィスとして使用されているほか、古い木材を利用して建てられたカフェやハウスボート型のホテルがあります。ここでは、植物栽培による土壌改善、環境保全型の農業、クリーンエネルギーの発電や利用など、サステナビリティのためのさまざまな取り組みや実験が行われています。

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De Ceuvelのすぐ近くにあるハウスボート群が、Schoonschip(スホーンスヒップ)と呼ばれる水上の住宅地です。De Ceuvelを始めたメンバーの一人が立ち上げたプロジェクトで、サステナブルな取り組みをしたいと考える住人たちを募って実現しました。ソーラーパネル、ヒートポンプ、スマートグリッドなど、よりサステナブルなエネルギーのための取り組みが行われています。また自転車や自動車も住人同士で共有しています。

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この日の最終地点は、アムステルダムのビールブランド「Oedipus」(ウディプス)の製造所です。まるでソーダ飲料のようなポップなラベルデザインが目新しく、またMannenlief(マネンリフ:「男性愛」の意)などユニークなネーミングが人気を得ています。

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ハイネケンの傘下ブランドとなった今も、樽で醸造した新感覚のビール、地元のスケートカフェとのコラボ商品など、常に新しいアイデアを模索し続けています。新しい商品の発想源やデザインへのこだわりなど、バーのアシスタントマネジャーを務めるティムさんからじっくりお話を聞くことができました。

写真)製造所を案内してくれたティムさん

この日の見学を終えた早川さんは「土地柄、オランダではマーケティングが大事だと改めて思った。食品についても、(オランダ人の)見せ方はやっぱり上手いと感じた」と話しました。参加者にとってオランダのデザインやグラフィックは特に印象的だったようで、「看板がシンプル。日本では全部の言葉を入れてメニューなどもガチャガチャだが、こっちではシンプルで、みんなにわかりやすい」「とにかくデザインが良い、表示や看板がかっこいいのはデフォルトで、デザインに投資している」などの声が上がりました。

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【ツアー4日目】

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最終日は、2016年にスタートした、日本のクラフトやデザインプロダクトに特化した展示・即売会「MONO JAPAN」を訪れました。主催者の中條永味子さんよると、大きい展示会はバイヤーが主な来場者となるため、商品やブランドのストーリーが市場に浸透しにくいというデメリットがあるのに対し、MONO JAPANにはエンドユーザーが直に商品を手に取り、作り手の話を聞くことができるという強みがあります。今年は23社が出展していて、本ツアーに前年度参加された木彫前田工房の前田暁彦さんがオランダ人デザイナーのキャロル・バーイングスさんとの協業により手がけたプレートのシリーズも見ることができました。

オランダスタディツアー2023の写真

写真)前回のツアー参加者・前田暁彦さんとオランダ人デザイナーのキャロル・バーイングスさんの協業による作品の一部

出展者たちはヨーロッパの文脈に合いそうな商品をセレクトし、消費者の反応を試すための場としてMONO JAPANを利用しているようです。「寿司など、オランダ人にも親しみのあるシンボルを取り入れています」「来場者の声を商品に反映しています」など、各出展者の方々の貴重なお話も聞くことができました。

オランダスタディツアー2023の写真
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写真)自社のブースでミニコンサートを行うブランドも

本ツアー参加者でありMONO JAPANにも出展している近藤さんに初日の手応えを聞くと、「リアクションはすごくいいですよ」と満面の笑みで答えてくれました。

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写真)展示・即売会MONO JAPANに出展中の近藤さん

その後、アムステルダムを拠点とするテキスタイルデザイナーのメイ・エンゲルギールさんと大上さんによる、2人の協業プロジェクトに関するレクチャーが会場内で行われました。独特な色の組み合わせが目を引く作品を創り出すメイさんは、日本を含め世界各国を股にかけて活動中で、若いながらも実力のあるデザイナーです。2人は、エヌエヌ生命が主催している日蘭協業支援プログラム「MONO MAKERS PROGRAM」をきっかけに、今年協業を開始しました。

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日本でも和紙の使用量が減っているという現状を前に、世界に向けた和紙のPRを行いたいと考えた大上さんは、日用品だけでなく、インテリアやファッションなど、新たな和紙製品をメイさんと共に模索しています。染め方、色の組み合わせ方、マテリアルの使用など、全て話し合いながら協業が進んでいます。「オランダはデザインが洗練されているものの、ドイツやフランスのように強い色があるわけではないので、フランクに話ができた」と大上さんは協業について話します。

「サステナブルな素材をヨーロッパの人が探しているということで、レザーに変わる素材を作れないかという相談がフランスの方からありました。日本ではレザーに関する考え方など、サステナビリティの意識がまだまだ低い現状があります。ヨーロッパではどんなものが人気なのか、今メイさんから教えてもらっているところです。」

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色の混ざったリサイクル紙をとても気に入ったメイさんは、大上さんとその生産工場を訪れ、そこで開発する商品のテクスチャーが決まりました。さらにメイさんが着物を包むためのミントグリーン、ピンク、ボルドー、青などのカラフルな和紙を見つけ、その中にあった色を使いたいと希望したそうです。それに対し、「色目を選ぶときに、着物の包装紙に使われていた色を選び、取り入れるというのがオランダのやり方なんだと思って感心しました」と大上さん。
「藍染や茶色など、勝手に外国の人が喜ぶんじゃないかと思ってサンプルとして出しましたが、ちょっと違うということで(笑)。インディゴや柿渋など、日本ではある程度有名になっているところには行かずに、日本人は選ばないような色を選ぶところにも驚かされました。」

メイさんは、日本でよく目にしたモスグリーンのような緑を使うことを提案したと言います。「メイさんは日本にもリスペクトがあるということで、プロダクトにも和を感じます。日本人が表現するよりも日本っぽいというか、日本の良さを引き出している感じがします。直接お会いして、メイさんの思考や、どういう進め方をするのかが見えてきました。折り紙の要素を入れるなど、そういうアイデアがポンポンと出てきました」と大上さんは続けました。

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一方メイさんは、なぜ日本の職人と仕事をするのか、という質問に対し、「日本の職人たちはとてもプロフェッショナル。何かを要望すると、その通りに作ろうと熱心に取り組んでくれる、信頼できる存在です」と答えました。オランダと日本のそれぞれの強みが活かされた新商品の開発に、期待が高まります。 

オランダスタディツアー2023の写真

今回のツアーで初めて集結し、終始楽しそうに過ごしていた参加者たちは「5人で体験を共有できたこともよかった」「移動の間もそれぞれの会社のことや、今抱えている課題について海外で話し合えたことがとても貴重な体験だった」とツアーを振り返ります。ものごとの本質をとことん追求する現地の人と出会い、対話する中で、自社製品の本当の強みに気づかされた、という声もありました。

また、環境に対する考え方が日本と異なる、と参加者たちは話します。「オランダは環境問題が進んでいるんだろうな」というぼんやりした前知識しかなかったという大上さんは「オランダでは木を切りません、などは当たり前で、もっとその先の機能性や社会貢献を意識している」と感じたそうです。近藤さんも「見た目をかっこよくするデザインじゃなくて、考え方が大事」だと気づいたと言います。新しい商品を考えるときに、サステナビリティに関するチェック項目など、上辺だけでない取り組みをしていきたい、と意気込みを語りました。参加者たちは、オランダに降り立った時よりも一段と明るい、確信や期待に満ちた表情でそれぞれの帰路につきました。