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経営のヒント

「牛の尿で地球を救う」環境大善株式会社
代表取締役社長 窪之内 誠 氏

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牛の尿が地球環境を改善する。そんな話を聞いたら誰でも「え?」と首をかしげるだろう。元々牛の尿の処理といったら北海道の畜産農家の悩みだったのだから。


牛の尿で世界の環境を改善するという壮大なチャレンジに取り組んでいるのが、環境大善(だいぜん)株式会社だ。代表取締役社長を務める窪之内誠氏に話をきくべく、我々は北海道網走も近い、北見市に飛んだ。

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

父の決断

窪之内氏は、創業者で現在は取締役会長を務める父の覚氏から事業を引き継ぎ、社長に就任した。元々は一般企業で営業職をしていた誠氏がどのような経緯で社長に就任し、どのような事業を手掛けているのか紹介しよう。


創業者である覚氏が株式会社環境ダイゼン(現在は環境大善株式会社へ称号変更)を立ち上げたのは、定年退職をした後のことであった。それまで、覚氏は、地元のホームセンターの店長を務めていた。そこで、現在の主力商品である「きえ~る」の元になる液に出会った。


元々「きえ~る」はホームセンターの1事業部の中で販売を開始したもの。覚氏は、その商品を自ら開発し、誰よりもこの商品に熱心に取り組んでいた。


覚氏は、自分がこのまま定年退職してしまうと、この商品を取り扱うことができる人が社内にいなくなることを懸念していた。そこで、退職金の代わりにこの商品の権利を譲り受け、友人らの出資もあり自ら会社を立ち上げることを決意したのである。

「家族は父親が(会社を)登記し終わった時に知ったのです。退職金がわりに『きえ〜る』の権利を譲り受けたことも知りませんでした。みな、まぁしょうがないな、と。なんかそんなことになるかもな、という感じはしていましたけどね」


そう誠氏は苦笑する。

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

息子の決意

それから約10年の時が経ち、とある上場企業がこの商品に目をつけて、買収の話を持ってきた。覚氏はこの話を断ったのだが、その際たまたま同席していた誠氏に、相手企業の社長は帰りしなにこう言った。


「この液体についてもっと調べた方がいいよ。これはただの消臭液ではなく、地球の循環を助けるものになる可能性がある


もともと農家さんは「この液を農地に撒くと作物がよく育つ」という話を良くしていた。科学的な理由はわからなかったが。


「もしかしたらこの液にはすごい可能性があるのかもしれない」誠氏はこの液体にかけてみようと思った。その時父は70歳過ぎ、自身も40歳を過ぎていた。長年勤めていた会社を辞め、父の仕事を手伝おう。誠氏がそう決断するのに時間はかからなかった。

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

環境大善の場合、ファミリービジネスの承継とは異なり、サラリーマンだった父が興した会社を引き継いだ格好だ。


「父のマインドを引き継ぐことができる人間がやらないと、すぐ事業が縮小してしまう」そう思っていた誠氏。外で営業やマーケティングのプロとしてやってきた自分が、「ビジネスを1から10にする、もしくは10から100にするんだ」そう決意した。


もちろんそこは親子、お定まりの衝突はあった。だがある日、父は唐突に経営から身を引いた。「こいつに任せれば安心だ」そう思ったのだろうか。今ではたまに会社を覗くくらいだという。外で築いたキャリアを捨てて実家に戻った息子の決意も重いが、子にすべてを委ねた父もまた豪胆だった。

「きえ~る」開発の経緯

牛の尿は、以前からその強烈な臭いや処理方法が問題になっていた。牛の尿が大雨などで河川に流出したり、土壌に浸透したりすることで地下水に混ざると、環境に悪影響を与えると考えられていた。そのため、牛の尿を無害化して川に放流するために生み出されたのが「きえ~る」の元となる技術だった。


たまたまこの技術を用いて、牛の尿を微生物分解処理した液体が、現在の会長がホームセンターの店長をしていた時、店に持ち込まれた。「何故ニオイのする牛の尿が無臭になるのだろう?微生物が何か良い働きをしているのかもしれない」その商品の消臭機能に目を付けた会長が、「きえ~る」の開発を始めたのである。「きえ~る」は、牛の尿の中に、環境微生物を入れて尿を分解している。もともと牛の尿の無害化のための事業から、たまたま消臭機能が発見され、「きえ~る」に応用されたのだ。

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

事業を継いでからやったこと

誠氏は会社に入ってからまず、商品のパッケージングを見直した。父である会長が主導していた頃は、会長と同年代の人をターゲットにしていた。そこで誠氏は、都心の人気雑貨ショップなどで、若い女性をターゲットに中身は変えず、パッケージを変えた。一方、ホームセンターや生協にはそれに適したデザインの商品を展開したのである。


さらにチームビルディングを取り入れた。執行役員以外の役職を廃止し、完全にフラットな組織にした。


「環境大善という柵の中で、企業ビジョンの『地球の健康を見つめる』ために何が出来て、何をしなくてはいけないのか、みんな力を合わせてやろう」


そう社員に呼び掛けた誠氏。それから社員が大きく変わった。お互いをリスペクトするようになり、それぞれの分野で成果が出るようになった。結果、離職する人間も極端に減ったという。


誠氏は会社の経営を、「発酵経営」という理念に当てはめていた。微生物発酵の世界では、善玉菌が優勢だと発酵が促進されるが、悪玉菌が優勢だと腐敗してしまう。企業経営も、善玉菌のように会社に良い影響を与える人がいると、顧客と地球に対して良い結果が出ると考えたのだ。

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

あるデザイナーとの出会い

環境大善は、札幌のアートディレクターの鎌田順也氏に商品のパッケージを依頼した。鎌田氏は、単にパッケージを変えるのではなく、コーポレートアイデンティティーを見つめ直す事を提案した。そして、パッケージを変えて商品がコモディティ化するよりも、環境大善ならではの強みを見せるパッケージにする必要があると主張した。


経営者となってから3年が経ち、自社のビジュアルアイデンティティーを見い出し、商品の新しいデザインの草案が誠氏の手元に届いた。ビジョンが宿ったそのデザインを見て、誠氏は「納得しかない」、と言う。人との出会いが企業経営にこれほどまでに大きな影響を与えるのかと驚いた。誠氏は社内の組織上、鎌田氏を自分のすぐ横に置いている。

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

研究開発型経営

環境大善は2017年から、地元の国立大学法人北見工業大学と共同研究を始めた。ちょうど、「消臭液」と「土壌改良材」、どちらを打ち出すか悩んでいた時期でもあった。その時、土壌改良材「土いきかえる」に植物成長促進効果の結果が出た。それは窒素、リン、カリウムといった単純な栄養素ではないこともわかっており、現在はその効果の作用機序を解明することに注力して共同研究を進めている。


誠氏は共同研究の担当教授であった小西教授から紹介を受けたゼミ生を新卒で研究員として採用し、共同研究先の国立大学法人北見工業大学に派遣した。2020年には大学と共同研究講座(寄付講座)を5年間開設する契約も結んだ。ラボも出来上がり研究員も確保したことで、研究のスピードがアップした。まさに産学共同の研究開発、商品化が始まった。研究開発型企業へと進化したのだ。その経営判断の的確さとスピードには舌を巻く。研究成果は大学とどう配分するのだろう。聞いてみると、

「共同出願し、うちが買い取ることにしています。大学にも利益が出るようにしています」

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

話を聞いて思った。


地元の酪農家のやっかいものであった牛の尿を買い取ることで彼らにお金を落とし、大学との共同研究で人を育てると同時に大学にも利益になる仕組みを作り、自社の研究開発を加速させて商品力強化をスピードアップさせる。まさに三方よし、なのである。


また特許庁の紹介で、「下町ロケット」に登場する弁護士のモデルにもなった鮫島正洋弁護士に、「特許を取るところと、ブラックボックス化するところを分けて戦略的にやろう」とアドバイスを受け、知財戦略にも乗り出している。

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏

今後の展望

環境大善の「きえ~る」「土いきかえる」は既に海外進出している。主な輸出先はカンボジアを筆頭に、ベトナム、韓国、中国、ミャンマー、シンガポールなどだ。海外の旺盛な需要を見て誠氏は将来的には国内外でプラント運用を実施するべく計画中で、運営事業にも力を入れ始めた。


経済産業省の、戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)の 採択も受け、「土いきかえる」をベースに微細藻類の増殖促進効果の研究も進めている。この液が、バイオ燃料などで注目されている藻類の大量培養を高効率化する道を拓くかもしれない。さらに稲や植物工場などの水耕栽培にも有効だという試験結果も出た。


もはや環境大善はバイオテック企業といっていいだろう。まだスタート地点に立ったばかりではあるが、「地球の健康を健やかにするために」、誠氏の目は世界を見つめている。

環境大善株式会社 代表取締役社長 窪之内 誠 氏


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