カフェ「つぐのわ」のミストレス(女主人)を務める。
おしゃべり大好きで世話好きでおせっかい。一度お店に来たお客さんの顔や話をすべて記憶している接客のプロフェッショナル。
カフェ「つぐのわ」は、コーヒーも美味しく、陽子が親身に相談に乗ってくれると評判で、経営者の妻を中心に常連客が多い。

不動産会社経営者の妻(50歳)
つぐのわの古くからの常連客。子どもたちが、やっと独立してほっと一息...という矢先に、妹のことで頭を悩ませることに。

いらっしゃいませ、あら～いつにもまして今日はご機嫌ね。どうしたの?

ふふふ...分かります?実は、あの後うちの主人に「財産はすべて妻真由美に相続させる」という内容の遺言書を書いてもらったの

あら!よかったじゃない。どうりでご機嫌なわけね...

悩み事もなくなって...最近、食事が美味しくって...
陽子さん特製のクロックマダムと特製ケーキを頂けるかしら

それはよかった...コーヒーでいいかしら。少々お待ちくださいね。

遺言書で相続問題はすべて解決したわ...主人の財産は、すべて私たちのものよ...前妻の子になんて渡さないんだから!

えっと...盛り上がっているところ悪いのだけど...

え...なに?陽子さん?
ところで、ワインでも飲もうかしら...

ワインはないのだけど...
遺言書で「財産はすべて妻に相続させる」と書いてもらっても、前妻のお子さんにもある程度の財産を渡す必要が出てくるかもしれないわよ。

え??? なんですか、それ?
絶対にありえません!
だって、遺言書では、私がすべて財産を相続することになっているんですよ!!!もしかして、書き換えられる可能性があるとか?

ちょっと落ち着いて...
まず、遺言書はいつでも書き換えることが可能だから、ご主人が翻意して内容を書き換える可能性は否定できない、これが1点目ね。 次に、遺留分(いりゅうぶん)って聞いたことないかしら。

書き換えられないよう、注意が必要ってことですね!もしも遺言書を書きかえるようなことがあったら、私が許さないわ!
で、「イリュウブン」ってなんですか?「しぼうのかたまり」とか言われている奴ですか?

それは、「粉瘤(ふんりゅう)」ですね。
「遺留分(いりゅうぶん)」というのは、相続人に法律上認められた最低限財産を受け取れる権利とでもいえばよいかしら。
端的にいえば、遺言書の内容がどうであれ、相続人というだけで、財産を受け取ることができるのよ。

え?何言っているんですか?
...ここは日本ですよ、そんなルールがあるんですか?
だって、遺言書上、全部私に渡すって書いてあるんですよ!そんなの認められないわよ!許さない!!!

まぁまぁ落ち着いて...
とにかく「遺留分」という制度があって、たとえご主人の遺言書上、「全部の財産を妻に渡す」とされていても、前妻のお子さんから遺留分を請求されてしまうと、ある程度を支払わなければならないのよ

そんな...いくら支払わなければならないんですか!?

子の場合は、「法定相続分」の1/2とされているわ。真由美さんのところの家族構成は、ご主人、真由美さん、お子さん2名だったかしら?

はい、そうです。ところで、法定相続分って何ですか?

法定相続分というのは、法律上定められた相続の割合とでもいえばよいかしら。よく、「妻は1/2」とかっていうでしょう。
ご主人の場合、前妻のお子さんいれて3名となるので、お子さん1人の法定相続分は1/6になるわ。なので、その1/2だから、1/12ということになるわね

あ、そんなもんでよいの...なんだー半分くらいとられちゃうのかと思った...

真由美さんにはお子さんが2名だから、1/12になったけど、例えば、お子さんが居ない場合には1/4ということになるわね

なるほど...にしても、遺産を全部渡すって遺言書に書いてもらっても、そんな落とし穴があるなんて知らなかったわ。

そうね...知らない人も多いわよね。遺留分対策という形で、遺言書上、一定の財産を渡してしまうということもできるみたいだから、色々と考えておくとよいかもしれないわね。

あ、遺言書って書き換え自由っていう話でしたもんね。

ところで、遺言書って自分で書いたの?それとも公証役場で作ってもらったの?

あーパソコンでパチパチ打ってもらって、判子押してもらいました。

えええ...それって遺言書として無効になるかもしれないわよ。

どういうことですか!?
もう、これ以上の落とし穴はいらないです!

落ち着いて...
遺言書には、大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」というものがあって、前者が自分で書くもの、後者が公証役場で作ってもらうものなのね。

ふむふむ。

で、「自筆証書遺言」というのは、本文、署名、日付を全部自分で書いて、最後に判子を押すことが必要なのだけど...

自分で書いて、というのはペンとかで書くって意味ですか?パソコンに打ち込んで、印刷するとかは駄目なんですか?

一部例外が認められるようになったけど、すべてをパソコンで作ってプリントアウトしたものは認められないわよ

あああ...さっきまでの私は何だったのか...

でも、ご主人に万が一のことがある前でよかったじゃない。

そうですね...早速、一から書かせたいと思います。

遺留分の件もあるし、一度弁護士等の専門家に話聞いてみるのもいいんじゃないかしら?

そうですね...
万が一に備えて、ここはケチってはだめですね!

ちゃんと作るのであれば、公証役場で作ってもらうというのも手だと思うけど...

公証役場で作ってもらうと何かよいことはありますか?

公証役場の公証人という専門家が、しっかりと内容をチェックしてくれるし、自分でわざわざ書く必要がないというのはメリットかしらね。
あと、自筆証書遺言の場合には、ご主人が亡くなった時に家庭裁判所で遺言書の内容を確認する「検認手続」という面倒な手続きが必要なのだけど、それが不要というのは大きいかもね。

色々と複雑な手続が絡んで面倒そう...
会社に顧問弁護士がいるみたいだから、しっかりと相談してみたいと思います!
あ～なんか色々ありすぎてお腹減っちゃった…ケーキ追加で!