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私たちの事業承継 #7
お店を続けるということは、父が生き続けるということ。

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「時津洋」 店主 吉岡 幸織さん


1994年生まれ。先代店主である父は、元幕内力士・時津洋。電気工事業に従事の後、2019年3月に事業承継した。
承継以来、先代時代から勤務する伊藤料理長と共に店を切り盛りしている。ちゃんこ鍋のみならず、「豊ノ島豆腐」を使った料理は、”美食家”だった先代時代からの名物メニューで、今でも根強いファンが多い。

突然の事業承継にまつわるエピソードをお聞きする「私たちの事業承継」。第7回目にご登場いただくのは、ちゃんこ屋「時津洋」の店主、吉岡 幸織さんです。

―初めて事業承継について先代とお話しされたのはいつですか?

まだ私が前職で働いているときです。
長く勤めてくれていた女性社員が退職することになりまして。そのタイミングで先代社長である父から誘われました。
「幸織ちゃん、この会社に入ってくれないか。これから一緒に頑張ってくれないか。」と。


でも私は、飲食店はもちろん接客業の経験すらありませんでしたから、戸惑いました。
しかもそれまで、父から料理について教えてもらったこともなかったんです。


一つだけ教えてもらったのは、豊ノ島豆腐のタレ。
時津風部屋 豊ノ島さんのご実家がお豆腐をやっているので、豊ノ島豆腐って呼んでいるんですけどね。
父方の祖母の十回忌の席で「これはおいしいんだよ。幸織ちゃん、作るの手伝ってくれる?」って父に言われまして。
教えてもらったといっても、父が説明してくれるのを横で聞いていただけです。私がやったのは、ごみを片付けたことくらい。


だから、父から「お店を仕切っていく気持ちはあるか」って聞かれても、すぐには答えられなかったんです。 「突然言われても、OKとは言えないよ。そんな覚悟があるなんて簡単には言えんよ」と伝えました。
勤め先に話を通さないといけないし、2、3日待ってくれる?って。


父の訃報の連絡を受けたのはその翌日でした。料理長から、「落ち着いて聞いてな。親方が亡くなった」と電話をもらいまして。
嘘だと思いました。だって、昨日会ったじゃない。ちょっと待ってって言ったばかりじゃない、って。


ただ、しばらくはやらなきゃいけないことがたくさんあって、悲しいという感情を確認する暇もなかった気がします。

何より、お店をどうしようって。その日も予約が入っていましたから。結局休んだのはその日のランチだけ。 親方だったら店を開けろって言うだろうと、料理長をはじめ、従業員のみなさんが言ってくれたので、亡くなったその日の夜からお店は開けました。
従業員のみんなは、お店をやりながら、その合間にお葬式に来てくれたという感じでしたね。

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―承継しようと考えたきっかけは何でしたか?

お客さんかもしれませんね。
このお店のお客さんの笑顔ってすごく素敵なんです。みんな笑いながら食べてくれるんですね。
そんな場所をなくしていいのかなって思いました。
お客さんからも、「俺たちの、私たちの、飲む場所を残しておいてほしい」って言われたことも大きかったかもしれません。


父の兄弟も、やらない、やれない、って言うので、私が継がなかったらお店がなくなってしまうところだったんです。
ただ、経営についても、食材についても、お客さんについても、何も知りませんでしたから、もちろん迷いました。
継いだとしても、潰してしまったらなんの意味もなくなってしまいますから。


そして、色々と考える中で、このお店と、このお店に来てくれているお客さんが、父が残してくれたものなんだと気が付きました。
だから、このお店を続けるということは、父が生き続けることにもなるんじゃないかって思ったんです。


継ぐと決めるまでにあまり時間はかけられませんでした。
だから、私が事業承継すると決断したのは、父が亡くなってから7日目のことでした。

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左から、女性社長.net 横田響子さん、エヌエヌ生命インタビュアー、吉岡さん

―事業承継をしてなにが一番大変でしたか?

資金繰りでしょうか。


私も、そして右腕だった料理長ですら、どこから何を仕入れていて、いついくら支払えばよいのかも、なにもわからなかったんです。
借入金がいくらあるのかの見当さえもつきませんでした。


父が亡くなって、初めにしたことも通帳探しでした。
本当に、何も聞かされていなかったので、お店の通帳すらも、どこにあるのか分からなかったんです。

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―承継して「やっていけるな」と感じたタイミングはいつでしょうか。

やっていける…。もちろん、恐怖は今でもあります。お客さんがこなかったらどうしよう。
お客さんが怒って帰っちゃったらどうしよう。売上が一気に下がっちゃったらどうしよう。
経営のことを勉強する時間がない、どうしよう。考えだしたらきりがないんです。


ただ、承継してから半年ほどしてから、甘えることを知りました。最初は自分が頑張らなきゃ、しっかりしなくちゃって思っていたんです。
でも、時間が経つにつれて少しずつ変わってきました。従業員が甘えさせてくれたのが大きかったんだと思います。
「幸織ちゃん、体調が悪いんじゃない?帰っていいよ?」って。
それで、「じゃあ、これをお願いしてもいい?」って聞くと、「もちろんです!僕がやっておきますよ」「大丈夫よ。幸織ちゃんは休みなさい。」って答えてくれて。


料理長に対しても、本当にありがたいって思っています。
私が具合が悪くて休んだ翌日に、「今日は動けないほどじゃない」って伝えたら、「じゃあお店に出てきて」と。
実は、厳しさじゃないんです。従業員が心配しているから、ちょっと顔だけでもだしてあげて、っていう双方への優しさなんですね。



私は、先代の娘だというだけで、急にこのお店を継ぎました。しかも、経営のことも、業界のことも、何も知らない。
それなのに料理長は、経営のこともお店のことも、一緒に、一生懸命にやってくれています。
本当にありがたいです。

なにか、これからの展望はありますか?

継いだ当初は、借金を返すために頑張らなきゃいけないと思っていました。
でも今は、社員をもっと良い環境で働かせてあげるために、なにかができたら、って思っています。


やっぱり、私、みんなのことが大好きですから。

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