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事業承継

「失敗のない人間に成長はない」
株式会社武蔵野 代表取締役社長 小山昇氏

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株式会社武蔵野の社長を務める小山昇氏。中小企業のコンサルタント業務やダスキンのフランチャイズ事業を手掛ける。独特のリーダーシップと経営術で高い顧客満足度と社員満足度を達成し、現在までに2度の「日本経営品質賞」を受賞している。

社長業と並行して、中小企業の組織開発、事業承継などに関するセミナーや講演会を全国で手掛けるほか、仕事術に関する著書も数多く発表している。そんな小山氏に中小企業における事業承継の在り方について話を聞いた。

(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)

株式会社武蔵野 代表取締役 小山昇氏

1月の半ば、小山社長に会うため東京都新宿のセミナールームを訪れた。駅前の超高層オフィスタワーの10階、新宿御苑を眼下に望むセミナールームの一角で、小山社長は残った一人の社長と思しき人に経営指南中。漏れ聞こえる会話も熱を帯びている。

中小企業の事業承継リスクが声高に言われている。事業承継がうまくいかずに廃業してしまう企業が非常に多いことが、日本経済のリスクであることは疑いの余地がない。

一方、子どもたちはなかなか継ぎたがらない。どうせ将来性もないし父親の会社に入るのは嫌だ、ということで、後継者問題で悩んでいる中小企業経営者も多いだろう。小山氏はそういう人たちにどうアドバイスしているのか、聞いてみた。

事業承継で重要な事

小山:親の言うことを聞かないのは当たり前ですよね。だってそれは子どもの自由ですから。親の言うことを無理やり聞かせようなんてとんでもないですよ。どうしても息子に会社を継がせたかったら、この会社は引継ぐに値する魅力があるんだ、ということを第三者に言ってもらわないと駄目です。なぜなら、身内は評価が低いでしょう?うちの娘なんか本にサインしてあげると言ってもそんなの要らないからお金ちょうだいって言いますからね。お金出しますからサインしてくださいといってくる人はいっぱいいるのに。(笑) 

株式会社武蔵野 代表取締役 小山昇氏

えてして、親が言っても子どもは言うことを聞かないもの。耳が痛い経営者も多かろう。小山氏のような経営指南役が必要になってくるのはある意味必然だ。人は第三者の言うことには耳を貸すもの、ということなのだろう。

次に聞いたのは、継いだ子どもをどう指導するのか、ということ。子どもが会社に入ってくるとやりにくいのではないだろうか?

小山:会社に入ってきた子どもがこれをやりたい、と言ってきた場合、反対する親は駄目なんですよ。人間ってね、失敗しないとスターにならないんです。何にもやらせないで承継させたところで、そもそも体験がないから会社を潰しちゃうわけです。先に勉強してやっといたほうが絶対間違わないじゃないですか。そのことが大切だと思いますね。

株式会社武蔵野 代表取締役 小山昇氏

子どもに継がせることを躊躇する経営者も多い。

小山:良く聞く話で「うちの会社にうちの息子はだめだから、社員の中で優秀な奴に会社を継がせたい」と。これは間違いです。その社長はそう思うかもしれませんが、金融機関は貸した金を返してもらわなくてはいけない。何にもない一社員が社長になると困るじゃないですか、息子であれば財産を担保にして貸付金を保全できる。これが正しい。

また、小山社長は、事業承継は人の心理を無視してやってはいけないと説く。特に子どもが複数いる場合だ。どうするのがベストなのか?

小山:事業承継で子どもが3人いたとしますね。一郎、次郎、三郎、として、三郎に継がせると決めたら100%株を渡し、後の二人には一切株は渡さない、というのが正しい事業承継です。

安倍:普通、揉めないように3等分にしたりとかしませんか?

小山:それがだめなんですよ。株を3等分にしたらどういうことが起きるか?一郎と次郎が結託したら、社長の三郎をクビにできるじゃないですか。何の権限もない二人が「配当が少ないから社長を追い出そう」と考えたらそれが可能になってしまう。

株式会社武蔵野 代表取締役 小山昇氏

株式会社武蔵野の社員の中には中小企業の子弟も数多くいる。武者修行に来ているのだ。

小山:失敗の体験がない人間は成功しません。だから事業承継する前にそれなりの体験をしておかないと駄目なんです。うちの会社に来て事業承継した人は皆うまくいっています。一人の例外もなく。何故かというと、うちの会社で皆嫌な思いをしているからです。(笑)

株式会社武蔵野では、従業員にはどんどん失敗の経験をさせるという。

確かに、人間、失敗しないと学習しない、というのはその通りだ。そう考えて子どもを外に武者修行に出す経営者は多い。しかし、その場合、絶対やってはいけないことがある、と小山氏は続ける。

小山:一番駄目なのは自分の取引先に子どもを学びに行かせることです。あの子どもが自分の会社に戻ったら社長になるとか、うちの発注責任者になるとか思ったら、その会社の社員は日和(ひよ)るに決まっているじゃないですか。

株式会社武蔵野 代表取締役 小山昇氏

取材を終えて

小山氏の理論は単純明快だ。響いたのは「事業承継は人の心理を無視してはいけない」ということ。事業承継を難しく考えすぎないことが大切なのかもしれない。そして、「人は失敗からしか学べない。」ということ。そういう意味から若い時から子どもを武者修行に出すことは極めて重要だと思った。