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経営のヒント

「ワイヤレス給電で社会を変える!」
株式会社ベルニクス 代表取締役社長 鈴木 健一郎 氏

  • 40-50代
  • 製造業
  • 関東
  • 後継者
  • 新規ビジネス
  • 公的支援
  • DX

この記事は8分で読めます

日本の中小企業は人口減による国内市場の縮小という構造的な問題に直面している。海外市場に活路を求めようにも、実績もノウハウも乏しい、という企業は少なくないだろう。そうした中、前に紹介した独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している、中小企業と国内外の企業をつなぐビジネスマッチングサイト「J-GoodTech(ジェグテック)」を活用し、技術力で海外市場に打って出ようという会社も出始めた。今回は創業41年、埼玉県の先端電源技術を扱う株式会社ベルニクスを訪ねた。

ベルニクス 鈴木健一郎代表取締役社長

写真)鈴木健一郎代表取締役社長

©Japan In-depth編集部
(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)

鈴木健一郎社長が当時勤めていた半導体商社から家業に戻って17年が経つ。現会長の父から2016年に社長を引き継いだ。一度も家業を継げ、とは父親に言われなかったという鈴木氏だが、前職を選ぶにあたり、将来のことは意識しなかったのだろうか?


「意識はしていましたね。やはり親の苦労しているところを見ていましたから、『繋げていかないと』というのは小さい時から思っていましたね。」


こうして半導体商社に就職した鈴木氏。そこで世界最先端の技術を学びつつ、業界のトレンドを学ぶことが出来たのは、家業に戻ってきてからとても役に立ったという。現在は「ワイヤレス(非接触)給電」という最新技術で勝負をかけようとしている。ワイヤレス給電はまだ一般消費者にはなじみが薄いが、既にスマートフォンの給電に採用されている。Qi(チー)というスマートフォンなど15W以下の低電力向けワイヤレス給電の国際標準規格で、iPhone8やXなど対応機種が増えている。いちいち充電コードにつながなくて済むので便利だ。

Apple iPhone用ワイヤレス充電器

写真)Apple iPhone用ワイヤレス充電器
出典)Apple

「今の日本の電気業界は高度成長期をものづくりで支えてきた一つの業種ですが、最近元気がない。我々は産業機器向けにワイヤレス給電 というものを開発していたのですが、B to B to CやB to Cマーケットで我々の技術を適応してみたら、面白いイノベーションが起きるんじゃないかと思い、色々な製品でチャレンジしています。」


鈴木氏がワイヤレス給電の対象として考えているのが家電製品だ。キッチン周りやリビングで使うものを想定している。


「家電は大体50Wぐらいでほぼ動くんですね。冷蔵庫とかエアコンとか電子レンジは無理ですけれども、それ以外のものは大体動きます。電気製品には常にコードがつきまとっているんですけれども、コードのない家電製品だとか、場所を選ばない給電方法は、新しい可能性を秘めていると思うんですよね。」


早速社内の「パワースポット:POWER SPOT TM 」を見せてもらった。まだプロトタイプだが、実用化されたらこんな便利なものはない、という新体験だ。下の写真の丸いコースター状のものがワイヤレス給電の「HOME : ホーム」になる。最大50Wの電力をワイヤレスで対象機器に安全に送ることができる。この「ホーム」の上にコップやマグを置くと給電されるわけだ。実際はこの「ホーム」はテーブルなどに埋め込まれるか、天板の裏側に設置されるという。木やプラスチック、ガラスを通して給電できるのだ。


給電は、ホームの上においたコップやマグを右に回すと開始するようになっている。人の自然な動作に合わせてスイッチが入るように設計されているのだ。

給電する「ホーム」

写真)ワイヤレス給電を体験できるパワースポット 給電する「ホーム」
©Japan In-depth編集部

パワースポットの概念図

図)パワースポットの概念図
出典)POWER SPOT TM

「ホームがテーブルに埋め込まれることにより、料理をサーブする仕方が変わります。普通最初に作った料理にラップをかけて、全部揃ったら最初の料理から電子レンジでチンして温める。で、みんなで食べるわけですが、このホームの上にお皿を置いて右に回せばお皿が冷めません。」

POWER SPOT TM

写真)POWER SPOT TM の「ホーム」の上に「CHOCO」を置いて右に回し、実際に中の水が温まるかどうかの実験をしているところ
©Japan In-depth 編集部

なるほど、料理が冷めないというのは家庭ではこれまで確かに実現不可能だったが、このシステムなら可能だ。食べ方だけでなく、調理方法にも革命が起きそうだ。それはホテルやレストランでも同様だ。


「ホテルとかレストランでは、ウォーマーでお皿や料理を温めて、料理が冷めないうちに食べてくださいと言ってサーブしますよね?それがテーブルでお皿が冷めない、料理が冷めないわけです。レアのお肉をお客さんが焦げ目をつけるとか、赤いところに火を通すとか、お客さんが自由に調理できる。料理の運び方もサービスも変わります。」

スマートスピーカー「ホーム」

写真)スマートスピーカー(左手側)に「ホーム」から給電する為の装置(右手側)
©Japan In-depth編集部

確かに自分がテーブルで自由に料理を調理できたり温めたり出来たら、食事の楽しみ方も大きく変わるだろう。料理そのものの概念がガラッと変わる可能性を秘めている。実はベルニクスは、POWER SPOT TMの開発前にワイヤレス給電の別のサービスをリリースしている。それが電動自転車のシェアリングサービス「Bell Sharing : ベルシェアリング」だ。


元々は電動自転車の2人乗り時の転倒事故が多く、後に乗せている子供の怪我が多いという背景があった。ある時さいたま市から、子どもが怪我しにくい自転車を開発してもらいたい、という要請があったことから話が始まった。その時、シェアサイクルの会社と知り合ったのだという。


「電動自転車のニーズは高いが、蓄電池を交換するのに人件費がかかってしまって中々(商売が)難しいんだよという話を聞いたんです。そこでワイヤレス給電は漏電・感電の恐れもないし、安全に給電出来るので自転車につけてみようと思ったのです。」


こうして始まった”Bell Sharing” 、サービス開始から4年になる。実際に電動アシスト自転車を見てみると、充電ポールから充電コードを自転車側の充電ポートに差し込むだけで給電できる。バッテリー交換の為の人件費が要らないわけだ。ワイヤレス給電でビジネスの可能性が拡がる。

”Bell Sharing1”

写真)”Bell Sharing"の電動アシスト自転車
©Japan In-depth編集部

”Bell Sharing2”

写真)充電ケーブルの先を電動アシスト自転車側のポートに挿入して給電する
©Japan In-depth編集部

”Bell Sharing3”

写真)充電ケーブルは普段給電ポールフックにかけられている
©Japan In-depth編集部

ありとあらゆるものがインターネットに繋がるIoTの世界。鈴木社長が次に目指すのは、「ネット・ゼロ・エネルギーハウス:Zero Energy House :」(以下、ZEH:ゼッチ)用の電源だ。ZEHとは、「快適な室内環境」と「年間で消費する住宅のエネルギー量が正味で概ねゼロ以下」を同時に実現する住宅をいう。

”ZEHの概念図”

図)ZEHの概念図
出典)経済産業省

政府は「2020年までにハウスメーカー等の建築する注文戸建住宅の過半数でZEHを実現する」という目標を掲げている。鈴木氏はそのZEH向け電源をこの秋にもリリースする予定だという。家の中の機器がこの電源に繋がると何が起きるのか?

ベルニクス

©Japan In-depth編集部

ベルニクス

写真)ベルニクスの開発センター内
©Japan In-depth編集部

「今まで家の電気の使われ方は、電力メーターでしか見られなかったわけですが、これからは何の機器がどれだけ電気を消費しているのか見える化されます。そうすると電力会社や自治体が、震災の時にどのエリアがまだ給電されているか、というようなこともわかるようになるわけです。」


それだけではない。


「我々の作るZEH電源の中にはAI(人口知能)が入っていて、ディープラーニングで家族がどのように生活しているか学習していくんですね。」


AIが天気予報から気温などの情報に基づき、家庭の電力消費を予測して深夜電力を買う、などということも現実となりそうだ。POWER SPOT TMにカップを置けば、明りもつく、カーテンも開く、テレビもつく、そんな生活がすぐそこにある、と鈴木氏はいう。そしてまもなく鈴木氏はアメリカ・テキサスでの商談会に行く。ジェグテックのサービスが後押ししたのだという。

ジェグテックを利用して

「テキサスでジェグテック主催のマッチングプログラムがあるんですね。テキサスの企業とか投資家と商談するんです。国内でも色んなマッチングイベントで普段付き合わない建築業界の方と会ったり。非常に我々中小企業にとってはありがたいサービスですね。」

ベルニクス 鈴木健一郎社長

写真)ベルニクス 鈴木健一郎社長
©Japan In-depth編集部

ジェグテックに情報を提供すれば海外の企業がそれを見てコンタクトを取ってくることもあるという。テキサスの商談会にしても事前準備をすべてやってくれるという。技術で勝負できる企業にとって海外における勝機が広がるのは大きなメリットに違いない。


最後にこれから家業を継ぐ人に対するアドバイスを聞いてみた。

これから「継ぐ」人へ

「親のネットワークを引き継ぐという考えではなくて、自分で新しい人材ネットワークを構築することですね。やっぱり親と違うものを自分の代で構築していかなきゃいけないわけで、色々な人の情報が次の事業へのいいヒントになっていくと思います。」


また、自身の経験から若いうちに中国、アメリカ、ヨーロッパの3つのマーケットを自分の目で見て歩いたことは大きかった、と話す鈴木氏。IoT、そしてAIが拓く新しいマーケットへの挑戦にかける意気込みを感じて埼玉を後にした。 参考)経済産業省「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について




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