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中小企業経営者にとって、避けて通れないのが、「事業承継」の問題です。しかし、エヌエヌ生命の調査では、「事業承継の準備は特にしていない」という回答が約4割に上る(※1)など、多忙な経営者にとって、気になっているもののなかなか着手しにくい課題となっているようです。今何が問題になっているのか、気をつけるべき課題はどこなのか、どんな備えが必要なのか-そうした経営者の問題意識に応える形で、見識ある経済ジャーナリストが最新の事情も交えながら、「事業承継」についてシリーズで解説していきます。

※1 エヌエヌ生命「中小企業の経営者が考える経営状況予測・意識調査」(2016年実施)より

 

自民党 山本有二議員に訊く
平成30年度税制抜本改正にて事業承継を後押し

この記事は7.5分で読めます

 

(安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)

写真)山本有二自民党税制調査会副会長
©Japan In-depth編集部
 

「事業承継についても話したいんだよね。」そう山本有二氏に声をかけられたのは2017年12月頭のこと。山本氏は自民党の税制調査会の副会長である。もともと来年度の税制改正の話を聞きに行ったのだが、話は法人税や出国税の話がメインだった、以前より事業承継について関心を持っている私は日を改めてインタビューに向かった。

「静かな潜在的な危険」

安倍:事業承継の問題が今大きくクローズアップされていますね。

山本:中小企業という存在は日本にとって宝物です。すべての企業の数の約99%は中小企業。そして、中小企業から大企業が生まれる。新旧イノベーション、我々にとって経済の活力は“中小企業が元気かどうか”というところにあります。

しかしここ15年で中小企業は100万社減少しています。中小企業の経営者の年齢のピークは66歳。農業の経営者の平均年齢とちょうど同じです。農業は高齢化することによって将来先細るのではないかと不安がありますが、中小企業も同様です、しかし国民的には農業ほど言われておりません。ここについては“静かな潜在的な危険”というのが、日本の経済の中で農業以上に停滞の中に込められていると認識しています。その危機感が今年は如実に表れたと思います。

しかし、今まで何にもしてないわけではありませんで、さまざまな形で承継ができるようにという補助金も出ています。しかし、70歳に手が届き、80歳になった中小企業の経営者にヒアリングしますと、後継者を決めた、事業承継の関係を整えた、という人はほとんどいない。つまり何もせずに、時を送っていることが明らかになった。

安倍:放置している。

山本:そうです。やっぱり、(承継者は)長男か次男かということだけでも難しい、もし女の子ばかりだったら、婿養子にするのか、社員にするのか、ものすごく難しいですよね。ですからそういう煩わしさの中にこの問題があるし、家族関係の中にこの問題があるし、社会関係のなかにあるし、人材不足の中にもこの問題がある。これらが重なりあっていることが難しい。その中でやがて相続するときにどうなるかというと、中小企業がほとんど承継されないという現実があります。


写真)山本有二自民党税制調査会副会長
©Japan In-depth編集部

 

事業承継税制改正のポイント

図1)経済産業省 平成30年度税制改正のポイント(抜粋)

出典)経済産業省

 

安倍:今回の税制改正のポイントは?

山本:現状では事業承継を考えた時に、贈与でなんとかくぐり抜けられるかというとそうでもない。法律の仕組みがあります。戦後の我々の相続では、均等な相続で家督を継ぐというのはなくなりました、つまり家督相続であれば嫡子、長男が家をとる、という形が日本流のやり方だった。しかし、それはあまりにも長男にウエイトがかかりすぎていないか、と。そうすると均分相続と言って子供すべて均等だと、それからまた、最高裁の判例がありましたけど、婚外子でもそういう身分はもっているということ、相続権をはく奪されても遺留分というのがあります。そういうことからすると、お父さんがこの子にと思っても、亡くなったら5人いれば5分の1、3人いれば3分の1に相続財産が分かれます。そうすると株主総会をやったときに3分の1では議決できません、というようなことからどうしようかという話になった。その問題が今年の税調でやっと解決できたのではないかなと思っています。

それから、もう一つ片づけなくてはならない問題がありました。実は、一般社団法人や一般財団法人といういわゆる“法人成り”するところがありまして、登記の費用だけで財産を財団にうつすことができるという制度があります。平成20年から公益法人制度というのが始まりまして。そうすると6万円の登記料だけで、自分の全財産を公益財団法人に渡して、土地も財産も年金も全部移ることになります。そうすると相続が発生しましても、そこの登記の中に自分の全財産が入る形になり、外観上は相続が発生しないため、事業承継をうまくいかせる抜け道に使われることがあります。

しかし、それをよく調べると、相続税の脱法なんじゃないか、事業承継はできてもそれはおかしい話じゃないかということがありまして、これも一緒に片づけようということになりました。これに関しては、ペーパーカンパニー、プチカンパニーといったものについては見直す、ということも含まれます。

同時に、事業承継時の株式分割をどうするか、という問題があります。株式が分割されることによって不安定な経営状態が発生するのは間違いないですよね。しかしこれを解決するのは、現行制度では難しいので、ここも見直して、100%全部相続税の猶予をしてしまおうと。そうして将来の経営環境変化のリスクに対応できる新しい仕組みができました。そして、会社を譲渡解散した場合には猶予された相続税、贈与税、これを全額納付しなければいけないので、そうすると一定期間内に経営者が承継計画を作成して見通しをきちんと立てて、それで申告して納税猶予を頂ける形になるので、原則として1人の先代経営者から後継者への承継が実現するようになります。これは10年間の時限立法ですが、親から子供へ事業を受け継ぐ方を念頭に置いたもので、中小企業、小規模経営者が事業を承継すると納税の猶予になります。

安倍:ずいぶん思い切ったんですね。

山本:私も最初、こんなことしていいの、税金とれないよ。大丈夫なの?と財務省担当者と話をしましたら、中小企業が潰れるケースのほうが日本経済にとってはマイナスだという回答でした。会社は土地と、オフィスでできていると思われていますが、ブランド価値や、作り方のノウハウなど、外から見てわからない無形の資産も保有していますよね。お父さんが熟練工を育てて、次の世代にもそういう技術を持った人たちがいないと、中小企業の人的資源はそっくり失われてしまう。そういうことから、中小企業の中身まで全部調べて検討した結果、猶予するという結論になりました。

財務省の主税局としては、中小企業が廃業よりも存続してくれれば、将来法人税、固定資産税や消費税を払い続けてくれる。トータルで考えて、猶予したほうが実は得なんじゃないかと、いうそろばん勘定もあったんですよ。

安倍:それは財務省は、数値化していないのですか。

山本:まだしていないですが、事業承継放置のリスクが、GDP22兆円の損失という数字は出ているわけですから。

安倍:話は変わりますが、東日本大震災の時に、これを機に廃業を、という企業もあったと思います。これからシリコンバレーみたいな、クリエイティブなベンチャー企業が生まれなければいけない。父親の家業を継ぎつつ、その中から新しい分野にチャレンジしていこう、という企業を後押しすることが大切ではないですか?

山本:企業同士のマッチングが必要だと思いますが、事業承継の中で、最も懸念するのは、旧型の生産性の低い産業を継続させることによる社会の停滞です。また、制度の脱法も問題です。例えばA産業というのがあったとして、これが新A産業という企業を設立して、少しずつ分社化しながら事業を移していき、残ったものは空洞化させて、それをつぶし、もうすでに向こうに新しい会社がある、というようなことをやられると、相続税はとれないわけです。事業承継を利用しながら資産を移転するという脱法行為をされてしまうのではないか、という指摘もありました。これについては、制度の仕組みを整えることにより、国税と共に、脱法がないようにしなければなりません。また、ゾンビ企業の温存ということが地方ではよく指摘されますので、それをなくしていく措置というのは別途必要になるかと。

今回の税制改正は、中小企業にとっては朗報です。アジアの企業にとっては日本の中小企業は輝ける技術の宝庫ですから、腕のいい人が海外の中小企業に引き抜かれる、というようなことがあります。それが我が国にとっては危険きわまりない産業の空洞化につながるわけです。

取材を終えて)

確かに今回の税制改正は思い切ったものだと感じる。賃上げ支援強化や、交際費課税の特例措置延長、生産性向上に取り組む中小企業の新規設備投資に係る固定資産税を2分の1からゼロまで軽減する特例措置なども入っており、政府与党の本気度がうかがえる。

一方で、制度は整って事業承継がうまくいったとしても、家業を進化させ、真に国際競争力があるキラリと光る企業に生まれ変われるかはまた別問題だ。それはやはり2代目、3代目経営者の力量であろう。「家業をどう発展させるのか」。この深淵なるテーマも改めて紹介したいと思う。

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