内容へスキップ

中小企業経営者にとって、避けて通れないのが、「事業承継」の問題です。しかし、エヌエヌ生命の調査では、「事業承継の準備は特にしていない」という回答が約4割に上る(※)など、多忙な経営者にとって、気になっているもののなかなか着手しにくい課題となっているようです。今何が問題になっているのか、気をつけるべき課題はどこなのか、どんな備えが必要なのか-そうした経営者の問題意識に応える形で、見識ある経済ジャーナリストが最新の事情も交えながら、「事業承継」についてシリーズで解説していきます。

※エヌエヌ生命「中小企業の経営者が考える経営状況予測・意識調査」(2016年実施)より

 

専門家が警鐘を鳴らす “突然の”事業承継

 
土肥正弘(ライター)

出典)pixabay

 

超高齢化社会を目前にして、高齢化する中小企業経営者の事業承継が進まないことが社会問題化している。事業承継に伴うリスクを前回記事で指摘したが、今回は、経営者の突然の死亡や引退によって生じる“突然の”事業承継リスクを避けるために、具体的にすべきことは何かを考えてみよう。

(1)事業承継時に備えて確保すべき資金の額は?

事業承継に際してまず問題になるのは「借入金返済」と当面の「事業運転資金」である。

借入金返済を迫られるケースとして、事業承継問題に取り組む税理士の小川実氏は「例えば5000万円の借入をして5年で2500万円を返済し、また2500万円の借入を組み直すという形でやってきた会社が、事業承継後には借入できずに2500万円一括返済を求められるようなケースがあります」と話す。

事業承継後に金融機関の融資姿勢ががらりと変わることはよくある。即座に全額返済を強いると倒産・廃業につながるケースがあるため、金融機関も多少の返済リスケジュールは考慮するだろうが、それでも返済を要求されることには変わりがない。

変更後のスケジュールで返済できるほど利益があればよいが、突然の事業承継後に利益が減少するケースは中小企業の28.1%と高く、しかも売上規模1億円未満の会社に限れば35.6%にのぼる(図1)。

事業収入が従来どおりとしても、返済分を捻出するのは難しくなり、運転資金から返済すればやがて資金がショートする。

図1)承継による利益の減少額

出所)注1参照

 

前経営者との「信用力」の差が問題

金融機関が問題にするのは承継者の「信用力」である。信用力とは一般に財務内容、事業の安定性や成長性、経営者の能力や人間性、会社と経営者の資産、返済実績などに対する外部からの評価だ。

前経営者の経営方針や事業戦略をそのまま引き継いだとしても、返済実績はリセットされがちで、死亡による承継の場合は個人資産を親族で分割するため、承継者の個人資産は前経営者よりも減少する可能性が高いうえ、売上維持にも疑問符がつく。

となると、これまでどおりの融資を受けるには、よほど対外的に人望の厚い人物が経営を承継しなければならない。十分に時間をかければ事前に後継者を育成して前経営者同等の対外的信用を得られるかもしれないが、育成には5年から10年はかかるのが常識で、突然承継が生じた場合には、間に合わない可能性が高い。

事業承継で必要になる資金の平均額は?

では、事業承継時にどれだけの資金が必要だったかを、「か・う・じ・そ」に沿って、前回同様にアンケート調査(注1)から見てみよう。数字はいずれも中小企業の平均金額である。

【借入金返済資金(か)】
 突然承継の場合4527万円、計画承継の場合3827万円

【当面の事業運転資金および従業員への支払い資金(う)】
 突然承継の場合、当面の運転資金2995万円、従業員への支払い資金2024万円

【自社株買い取り資金(じ)】
 突然承継の場合2739万円、計画承継の場合2489万円

【相続税支払い資金(そ)】
 突然承継の場合3911万円、計画承継の場合3108万円

図2)承継時に必要だった資金項目別平均/承継者・資金が必要だった人

出所)注1参照

 

もちろん会社の個別事情により、これだけあれば十分ということではない。用意しておくべき資金の目安について小川氏はこう話す。

運転資金の半年分、一般管理費の半年分、そして借入金の元本返済金額の半年分。これらを社内留保してください。売上が十分に得られない期間を半年と見込み、その間を耐えられる資金が必要です。それができたら、今度はそれぞれ3年分を確保する。そうすればもうびくともしません。しかし3年分の資金確保はハードルが高い。だからせめて半年分の確保を目指していただきたい」。

事業承継前に実行しておくポイントは?

とはいえ十分な社内留保を蓄積するのは簡単ではない。少しでも事業承継リスクを避けるための資金面での対策ポイントを、小川氏はこうアドバイスする。

「1つは承継者個人の貯蓄を増やしておくこと。役員報酬を高めにして、いざという時に資金提供可能にする。もう1つは法人向け生命保険に加入しておくこと。経営者の死亡などの場合には保険金が出るし、そうでなくとも解約すれば返戻金が出る。そうして突然承継が生じたときに半年分の運転資金が手に入るとすれば、その後の安定経営に向けた取り組みが楽になる。中小企業の事業承継資金不足を補う手段として、保険は有力な選択肢です」。

自社株買取りと相続税対策は?

では自社株買取と相続税(「じ」と「そ」)の面ではどう心がければよいだろうか。

経営者の死亡や引退時に誰が後継者になるか、資産をどう分けるかで骨肉の争いが勃発するケースは珍しくない。揉めるのはまずは後継者を誰にするかだが、これは事業に一番深く関わり、今後の事業維持・発展に最も意欲的な人がふさわしい。

だが、その人の持ち株と相続分の株式を合わせて2/3以上の株式に達しない場合、特別議決権が行使できないため完全な支配権が得られない。そこで親族などに分散している株式を買い取ることになる。この時の買取資金と相続税が問題だ。そこで小川氏は「株価を落とす」方法を勧める。

「取引相場のない株式の評価は類似業種比準方式か純資産価額方式のどちらかまたは併用で行われます。純資産価額方式では会社の総資産がベースになるので、株価を落とすには退職金を支払うなどで資産を減らせます。」

また、相続分の株式をめぐる親族トラブルを解決する方法もあるという。「まず承継者が相続分の株式を全部相続し、相続の権利がある他の親族などには承継者から代償交付金を渡すのが、トラブルに発展しない方法です。これは気持ちの問題。納得感があればトラブルが未然に防げる。そのキャッシュには、退職金や保険金が活用できます」。

事業承継にまつわるリスクはさまざまにあり、資金面での対策だけで済むわけではないが、少なくとも法人向け保険がスムーズな事業承継の一助になることは間違いない。5年から10年先の事業承継を見据えて後継者を育成しつつ、保険も活用して資金も蓄えながら、万が一の突然承継に備える対策を、早め早めに講じておくことが大切だ。

(注1)エヌエヌ生命保険株式会社による中小企業経営者調査より(2017年10月6日から10月13日、インターネット調査。対象は全国の中小企業経営者 2000名(男女40代から70代)、従業員数5人以上300人未満の企業経営者(会長職、社長職対象)。

経営者の“突然のリスク”に備える保険「エマージェンシー プラス」発売中。詳しくはこちら