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中小企業経営者にとって、避けて通れないのが、「事業承継」の問題です。しかし、エヌエヌ生命の調査では、「事業承継の準備は特にしていない」という回答が約4割に上る※など、多忙な経営者にとって、気になっているもののなかなか着手しにくい課題となっているようです。今何が問題になっているのか、気をつけるべき課題はどこなのか、どんな備えが必要なのか-そうした経営者の問題意識に応える形で、見識ある経済ジャーナリストが最新の事情も交えながら、「事業承継」についてシリーズで解説していきます。

※エヌエヌ生命「中小企業の経営者が考える経営状況予測・意識調査」(2016年実施)より

 

「突然会社に降りかかるリスク」とは?

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土肥正弘(ライター)
 
 

【まとめ】
・高齢経営トップの突然の死亡や重度疾病による引退時、後継者への事業承継計画がないと会社は存続の危機に。
・後継者に事業承継が進まない理由は、70代の高齢経営者が資金について具体的な準備をしていないことがある。
・後継者と会社が負うリスクで特に大きいのは「【か】借入金の返済資金」と「【う】事業運転資金」。

ある日突然、会社が危機に陥る原因は各種あるが、なかでもこれから増加すると危惧されているのが、中小企業の事業承継時のトラブルだ。特に高齢の経営トップが突然の死亡や重度疾病による引退となった場合、後継者への事業承継計画ができていないと会社も同時に存続の危機に立たされる。

(1)事業承継で会社が困る理由

高齢化は日本全体の問題だが、特に中小企業経営者の高齢化は深刻だ。中小企業庁は「今後5年間で30万以上の経営者が70歳になる」と指摘している。経営トップに対するアンケート調査(※)では、70歳を過ぎても経営者を続けたい創業者は36.4%、創業者以外でも25.9%である。

創業者ほど生涯現役で経営したい思いは強く、その10%は80歳を過ぎても経営を続けたいと答えている。加齢による健康リスク上昇は常識なのに、なぜ、若い後継者への事業承継が進まないのだろうか。

自信と誇り持つ高齢経営者はお金遣いが・・・

事業承継支援で多くの中小企業を見てきた税理士の小川実氏は、「中小企業のトップは自分ができるところまでやると言う方が圧倒的に多い」と語る。「現在70歳代の高齢経営者は好景気の時代に経営の成功体験を重ねた人。考え方はポジティブ、性格にはバイタリティがある」。


写真)税理士法人HOP 小川実氏
©Japan In-depth編集部

 

その多くは資金を銀行の当座貸越の枠内で好きなだけ借りられ、返済せずに金利だけ払って自由に資金を回せた時代を生きてきた。頑張れば頑張るほど会社が成長し、その成長を牽引してきた自信と誇りにあふれている。売上を上げていれば借入金は返せる、運転資金も入ってくるという考え方を基本にしている人が多い。

その一方、「事業や自分の5年先を見通している経営者は少数派。多くは今年の業績だけに関心があり、体調悪化に自覚的でない限り、先のことに思い至らない」(小川氏)という事実もある。やがては必ずやってくる事業承継について、漠然と考えていても実際に準備している経営者は約3割(※)にとどまるのも、その楽観的な資金観の表れだろう。

子どもにバトン渡したくても・・・

また事業承継計画ができない理由として「適切な後継者が見つからない」という経営者も多い。創業経営者以外では38.9%(※)である。現在でも、中小企業では経営者の子か親族による事業承継(親族内承継)が多いが、小川氏は現在の傾向をこう分析する。

「特に地方では経済的に豊かな経営者は教育に熱心。東京や地域中核都市にある有名大学に進学させるが、子は親が経営で苦労するところも見てきているため、家業を継ぐよりも上場企業への就職などの別の道を選び、出身地域に戻らないケースが多くなっている」(小川氏)という。

親である経営者の側でも、自分の事業を継いでほしい本音とは裏腹に「自分と同じ苦労を味わせたくない思いがあり、ジレンマの中で事業承継問題に正面から向き合えずにいる事情もある」という。

(2)事業承継にはこんなリスクが!

しかし経営者に万一のことが起きると、事業承継計画がないと会社経営は苦しくなる。売上が10億円以下の会社の場合は、商品力やビジネスモデルよりも、経営者の人的関係と営業力が事業維持・成長の要になっている場合が多い。そのような会社で事業承継がうまくいかないと、最悪の場合は廃業、あるいは社外への事業譲渡(M&A)を考えざるをえなくなる。

「100名の従業員がいれば、その背後に300名の家族がいます。事業承継の成否はその人たちに多大な影響を及ぼすことを考えなくてはいけません」(小川氏)。

そこでスムーズな後継者選びと育成、その後の事業承継の道筋を計画しておく必要がある。何の準備もない場合は、次のようなリスクを後継者と会社が背負うことになる。

後継者と会社が背負うリスク「か・う・じ・そ」

特に注意すべきなのは、「か・う・じ・そ」と呼ばれる次のようなポイントである。

【か】借入金の返済資金:金融機関からの借入金返済(時には全額一括返済)を求められることがある。
【う】事業運転資金:従業員への給料、取引先への支払いなどの運転資金が不足する可能性がある。
【じ】自社株対策資金:経営権保持のために2/3以上の株が必要なため、自社株の買い戻し、株相続の場合は相続税の支払い義務が生じる。
【そ】相続対策資金:後継者や遺族に課される相続税の支払い。

小川氏は、「特に『か』と『う』が大きな問題。カリスマ性・営業力・経営力を兼ね備えた経営者は、借入金があっても返済に自信を持ち、運転資金も内部留保する発想がない。しかし後継者が同じ売上を上げられるかというと難しい。手元に資金がないと借入が難しくなり運転資金がどんどん先細り、特に古参従業員との関係が悪くなってさらに売上が落ちる」と、負のスパイラルに陥っていきかねないことを懸念している。

事業承継時の「か・う・じ・そ」を前出の調査(※)で見ると、金額で1番は借入金、次に相続税、事業運転資金、自社株の買い取り資金と続く。注意したいのは、計画的に承継した場合の平均必要金額に比べ、突然の前経営者の死亡/引退による突然承継のケースではどの項目もより多くの資金を必要としていたことである。

また売上と利益も事業承継後は当面減少する傾向が見られるが、突然承継者の4人に1人が売上減少を経験し、その大部分が2割以上の減少になっている。一方、計画継承者の売上減少ケースは18.2%と、明確な差が出ている。

事業承継にまつわるリスクトップ10

以上の内容を少し詳しく分解すると、事業承継にまつわるリスクトップ10は次のようになろう。

(1)金融機関からの借入金返済の要請
(2)金融機関の信用格付けが低下し、借入が困難に
(3)売上/利益の減少
(4)取引先からの信用状態見直し、取引条件の悪化
(5)事業運転資金の消耗、枯渇
(6)古参幹部、従業員との関係悪化
(6) 相続税の支払い資金の不足(現金化できない資産相続)
(7) 自社株買い戻し資金の不足
(8)遺産(株式含む)相続の配分にまつわる親族間トラブルの発生
(9)後継者選びに関わる親族間、役員・従業の対立
(10)廃業や事業譲渡へ向かう圧力(親族、外部から)

次回は、これらのリスクへの具体的な対応法を解説していく。

(※)エヌエヌ生命中小企業経営者調査より(2017年10月6日から10月13日、インターネット調査。対象は全国の中小企業経営者 2000名(男女40代から70代)、従業員数5人以上300人未満の企業経営者(会長職、社長職対象)。

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