私たちの事業承継#2
突然の事業承継を経験して、会社継続のためにできること
株式会社イーグルメンテナンス 代表取締役 佐藤 健一さん
1970年北九州市出身。早稲田大学を中退後、学生時代からアルバイトをしていたビルメンテナンス会社エヌ・イー・エヌ(現イーグルメンテナンス)に就職。2010年に営業全般の責任者として同社の取締役に就任し、2016年4月に先代の入院を機に事業を第三者承継(従業員承継)した。
現在はオフィスビル、ショッピングセンター、商業店舗、病院、分譲マンションなどの事業系施設において、建物清掃業務全般を受託している。
―どのような経緯で会社を承継したのでしょうか。
先代が突然入院したのがきっかけです。
社長が入院していても取引先や支払、銀行などの対応はせねばならず、突然通帳と実印をわたされて、社内的な処理業務を引継がなければならない状況になりました。
当時は業績も悪く資金繰りがよくありませんでしたので、資金の手当てや取引先との支払い延期交渉などで会社、病院、銀行を寝る間もなく駆け回っていました。
そして、毎日仕事の確認のために病院に行っていると、次第に先代の体調が悪くなっていくのが目に見えてわかりましたので、「負債・債務を含めて引継ぎますので全て株を売ってください。」と伝えました。
債務超過の状況でしたので引継がないという選択肢もありましたが、従業員や取引先のことと20年以上自分の家族のようにやってきた先代の家族のことを考えると、その選択はできませんでしたね。
先代が亡くなる2週間前に株式は引継ぎましたが、先代が検査入院のまま退院することなくわずか2ヶ月半の間で亡くなりましたので、準備された事業承継ではありませんでしたね。
―先代がお亡くなりになられてまず何をしましたか。
会社の財務状況はほとんど破綻しており資金繰りと言えるレベルではなく、日繰りでしのいでいるという状況でした。
私は営業担当ということもあり粗利の計算はできており、粗利益率である程度でているのに全体が赤字になっているのは販売管理費の管理の仕方に問題がある、と日頃から考えていました。
ですから、まずは請求書の一枚一枚隅々までくまなく見て、徹底的に経費を減らすことをしました。
これまでも販売管理費については先代に見直すように毎年伝えていましたが、現場の職人さんタイプだったので、事務的な各種処理や手続きが苦手であまり改善出来なかったようですね。
―承継するうえで頼りになったことはありましたか。
商工会議所のビジネスサポートデスクの方に、事業立て直しのサポートをいただいたことです。
担当の方に過去3期分の財務諸表を見ていただき、一緒に改善計画を考えて短期・中期の見直しの計画まで作成していただきました。
当時は商工会議所の会員ではありませんでしたが、担当の方には「事業を立て直した後に入会してください。」と言っていただけて。
担当の方は本当に大変だった時期に、助けていただいた恩人の一人です。
―生命保険などはいかがでしたか。
保険証券の整理が全くされていませんでしたので、存在の有無すらわかりませんでしたが、先代の死後に掛け捨ての生命保険が1本だけあることがわかり請求しました。
ただ、保険金額は少なく運転資金に利用しましたが全然足りませんでしたね。
突然の事業承継を経験してみてわかりましたが、半年なんてあっという間に過ぎてしまいます。その後会社を続けるにしても清算するにしてもお金はかかりますし、スタッフの方々には安定して働いていただかなければいけないので、販売管理費の半年~1年分くらいは必要だと実感しています。
ですから、事業承継して財務を立て直しつつ現在では販売管理費が1年分出るような形で、工夫しながらいくつかの生命保険に分けて入りましたね。
―承継して一番心配だったことは何でしょうか。
やはり資金繰りですね。実は先代から渡された通帳は、ほとんどからっぽだったのです。
ビルメンテナンスという仕事の性格上、定期的に入金されるものがありましたので、それを見越して支払をしていくような状況でした。
月末の午前中に取引先から入金されたものを午後にスタッフの給与などの支払をしたら、残高数十円!ということもありました。
そういう状況でしたので、資金繰りに関しては一日単位で計算していましたね。
―承継してやっていけるなと感じたタイミングはいつでしょうか。
1年目は前述の通り資金繰り、2年目はスタッフとの人間関係に苦労しました。
新しい経営方針のもと様々な部分にメスを入れていったのですが、スタッフが全て理解して変化を受け入れるという訳にはいきませんでした。
しかも、先代は経費管理が緩い経営でしたから、そうした和やかな社風に慣れていた一部のスタッフからは当然反発も出ましたし、信頼関係も作る事が出来ませんでした。結果的に数人辞めていきましたね。
丸2年半経過し、財務面とスタッフが落ち着いてきて、ようやく今スタートラインにたったという感じですね。
(左からプロスペースの坂上社長、佐藤社長、イーグルアローズの高橋社長)
―突然の承継を体験して行っていることはありますか?
長年お付き合いさせていただいている建設会社があり、そこの社長が私の大変な時期をずっと見ていたのです。
そこで、相互扶助のような形でお互いに株式を持ち合い、私と先方の社長とでお互いに役員になって会社をグループにしました。
それぞれの会社で後継者が育つまでの間、「お互いの身に何かあったら会社を頼む!」という形ですね。
銀行・リース・登記・各種契約に関する情報、融資金額、生保・損保の加入情報などをまとめたものを貸金庫の中に保管して、もしお互いに万が一のことがあったら確認できる状態にしています。
最近では、長年お付き合いのあった協力業者の社長にもこの取組みに賛同していただき、株式に出資することでグループに入ってもらい、さらに深いお付き合いをすることになりました。
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