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家業承継×デザイン:更新するもの・受け継がれるもの:2020年7月 中小企業魅力発信月間 「次世代への支援」オンラインイベントレポート

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中小企業サポーターとして、次世代への支援活動を行うエヌエヌ生命保険株式会社では、中小企業庁が定める中小企業魅力発信月間に合わせて、去る7月30日(木)に「家業承継×デザイン:更新するもの・受け継がれるもの」と題したオンラインイベントを開催しました。

これからのビジネスは「デザイン思考」がキーとなる

2020年、まだ収束の兆しが見えないコロナ禍という厳しい状況下。ビジネスの世界では、従来の経営手法や手段が通用せず、新たなステージへと事業を発展させていく必要に迫られています。その一つの切り口として、経営者が描くビジョンや世界観を生活者に直接伝えることができる「デザイン経営」に注目が集まっています。

「デザイン経営」とは、従来の「技術偏重型」にデザインを掛け合わせて「技術×デザイン両輪型」で経営を進化させていくというものです。

「デザイン経営」の伝道者として、多くの企業にその必要性を説き、サポートしている株式会社ロフトワークでは、2018年に「中小企業におけるデザイン経営調査報告書」を作成し、その中で実践に必要となる5つのポイントを公開しています。

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株式会社ロフトワークは、「デザイン経営」に取り組む全国8社の企業をインタビューし、1冊にまとめた小冊子を自社のホームページで公開しています。各社それぞれの取り組みは、これからの経営に役立つヒントが記されています。

※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」はこちら

◆デザイン経営の実践における5つのポイント

01   ビジョンを更新する。

02   経営にデザイナーを巻き込む。

03   組織の変革をデザインする。

04   共創のコミュニティーをつくる。

05   文化を生み出す。

今回のオンラインイベントでは、「デザイン経営」における5つのポイントを解説しつつ、伝統や歴史、創業者たちの思いを残しながらも、時代と共に事業をアップデートしていくために必要なことを、5人の登壇者の皆さんとディスカッションしました。

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5名の登壇者たちは、各自が思う「デザイン経営」と事業の在り方について、オンライン上で熱くディスカッションを交わしました。

登壇者は、株式会社ロフトワークのクリエイティブディレクターを務める加藤修平さん、東京・足立区でアクリル製品専門の加工工場を営み、実際に「デザイン経営」を事業に取り組んでいる有限会社三幸の3代目・小沢頼寿さん、家業のゴルフ場経営を26歳で継いだ栃木県さくら市の株式会社セブンハンドレッドの小林忠広さん、そして、家業後継者候補や事業を継いで間もない経営者を支援するコミュニティー「家業イノベーション・ラボ」をNPO法人ETIC.とNPO法人農家のこせがれネットワークと共同運営するエヌエヌ生命保険株式会社の事業開発部長 遠藤哲輝です。

ファシリテーターは、株式会社ロフトワークのプロデューサー、桂将太郎さんに務めていただきました。

01 ビジョンを更新する。 →  自分たちのビジネスの可能性を広げる。

「まずは自分たちの存在意義を問い直し、経営者自身が思い描く世界や進むべき方向性をビジョンとして示すこと。ビジョンは新しい価値を社会に提供する原動力となる」

※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」より

加藤修平さん(以下、加藤)

「創業者の方も事業を継承された方も、時代の変化に合わせて、自分たちの在り方を振り返るタイミングがあると思います。そのタイミングこそ、自分たちのビジネスの可能性が広がるときです。『デザイン経営』を導入できるのは、大企業だけだと思われがちですが、むしろ、中小企業の経営者のほうがご自身の想いを伝えやすいので、『デザイン経営』は取り入れやすいと思います」


小沢頼寿さん(以下、小沢)

「僕が『デザイン経営』を導入したのは、モノづくりは得意ではあるけれど、見せ方、売り方の知識がなく、そういった分野に長けた人たちとのコネクションが広がればと、『ふるさとデザインアカデミー』(※)に参加したことがきっかけでした。それを機に、プロダクトデザインを外部のデザイナーに託し、ブランド名やコンセプトはライターに入ってもらい、自社のオリジナルブランドを立ち上げることできました。自分たちだけではできなかった結果が得られたのは、会社にとっても良かったですね

※『ふるさとデザインアカデミー』は経済産業省・中小企業庁の取り組みとしてスタートしたプロジェクト。株式会社ロフトワークでは、株式会社JR東日本企画と共に全国の中小企業に向けて『デザイン経営』の導入をサポートしました。

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外部デザイナーやライターたちと共に立ち上げた有限会社三幸の新ブランド『KEDOL』では、アクリル製のAppleWatch用のバングルを提案しました。代表の小沢さんが「自分が欲しい物を作ろう」と、消費者の立場となってモノづくりに取り組んだそうです。


桂将太郎さん(以下、桂)

「実際にビジョンを更新するのは、とても難易度の高い作業ではないかと思いますが、経験者として小沢さんはどうでしたか?」


小沢

「僕の会社が扱うのはカラフルなアクリル素材で、僕はその素材や加工技術をずっと残していきたいと思っています。カラフルな色は、人を元気にする視覚的効果があるといわれていますので、その強みを僕らはお客さまに提供していくことをミッションに掲げています。だから、会社の経営理念は『世界中をカラフルに人々を笑顔にしていきたい』です。あえて細かい道筋は設けず、大きな理念にしているのは、時代に合わせて中身は変えていけばいいと思っているからです」


小林忠広さん(以下、小林)

「僕の会社のビジョンは『みんなが幸せを実感できるゴルフ場』です。実は、僕が事業承継したときは、会社にビジョンや理念がありませんでした。でも、社員たちが目指すべき指標は必要だと感じて、社員たちとコミュニケーションをとりながら作りました。

ビジョンの更新には、今、僕らが持っているものと、お客さまが感じていること、そして、この先の未来のありたい姿を描いていくことが大事だと思います」


遠藤哲輝(以下、遠藤)

「代々続く家業には、元々あるリソースや事業やプロダクト、従業員のファンがいて、立ち返る拠り所があります。ビジョンを更新することは、それらをアップデートするのか、そのまま残していくのか、バランスをみて進めていくことではないでしょうか」


加藤

「ビジョンは更新したら元に戻せないものではないので、そこは柔軟に考えていいと思います。ただ、更新した結果に対するフィードバックを、どのように捉え、またそれをどう繰り返していくのか。このプロセスが『デザイン経営』にはとても大事なことです」

02 経営にデザイナーを巻き込む。 →  ビジョンを具現化する。

「経営者が思い描くビジョンを具現化するのがデザイナーの役割。経営のパートナーとして迎え入れることで、ロゴやウェブ、製品やサービスなどを通して、ビジョンをカタチにすることができる」

※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」より

加藤

「経営者のビジョンを明確にしたら、それをどう繋いでいくかを考えていかなくてはなりません。その手段はキャッチコピーかもしれないし、もしかしたら、ロゴデザインかもしれません。

以前、小沢さんの工場を見学させていただいたのですが、工場内にこれまでの製品のアーカイブが並んでいました。その中で、若い職人が過去のアイデアや工程を見ながら切磋琢磨している。その姿が『過去と対話している』ような感じがして、そのこと自体が『ビジョンが浸透する』という意味で『デザイン』ではないかと思いました。

『デザイン』としてできることはとても幅広く、また関わってくるプロフェッショナルもさまざまな分野やカタチがあります」


小沢

「普段、僕らは自分たちができる技術の中でモノづくりをしようとしますが、外部のデザイナーの方はそんなことは気にせず、僕らがあまり考えないものを投げかけてきます。

そこで躊躇してしまったら、事業のアップデートはできません。

そういう意味で、外部のデザイナーとの取り組みは、本当に顧客が求めているものを提案してくれるので、僕らもとても勉強になります」

03 組織の変革をデザインする。 →  ビジョンが伝播する。

「経営者だけでなく、社員もビジョンを共有し、実現したい世界観を一緒にカタチに育てていく。そのために組織の在り方や働く環境も随時更新していく必要がある」

※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」より

加藤

「多くの人は『変化』を嫌います。でも、変化は小さなことでも良いと思います。

たとえば、会社の席を移動するとか、隣の人を変えてみるとか。そういった小さいことでもコミュニケーションは変わってきますし、変わることをポジティブに捉えてほしい。

社内のコミュニケーションの一部を変えていくことは、ファシリテーションに近いかもしれませんね」


「たとえば、外部のデザイナーを招いたことで、古くからいる社員と軋轢が生じたという話も聞きますが、小沢さん、小林さんはいかがでしたか?」


小沢

「元々、僕らは、アクリル素材に興味のある個人デザイナーからアクションを貰うことも多くて、いろいろな人とアイデアを持ち寄って『何かやろうよ』という文化がありました。そういう土壌があったので、外部のデザイナーを招いて新しいブランドを立ち上げることもできましたし、『デザイン経営』という考え方も導入しやすかったのかもしれません」


小林

「僕もいろいろな方とのコラボレーションを少しずつ始めていますが、それこそ、以前は外部の方がいらっしゃると、社員たちは『この人は誰だ?』と警戒していました。そういった状況を目にし、僕はまず社員たちとコミュニケーションを図り、彼らが働きやすい環境づくりを目指しました。そこに注力した結果、お互いを許容できる環境が整ってきたようで、外部の方とのプロジェクトも組みやすくなってきているように感じています」

04 共創のコミュニティーをつくる。 →  コミュニティーの力でビジョンが育つ。

「ビジョンが社会的意義と重なり、新しい価値を社会に提案する存在となるコミュニティーは、会社の枠を超えたさまざまな立場の共感者と共に活動する場を果たす。その場の風通しが良いほど、想定外の価値の創発を引き起こす」

※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」より

「小沢さんはアクリル加工業のコミュニティーを運営されているとお聞きしましたが?」


小沢

「僕の場合、コミュニティーの運営というような大げさなものではなく、気心の知れた仲間と繋がっている感じです。

アクリル加工を生業としていても、会社によって秀でた技術は異なるので、その仕事に最も適した技術がある工場を紹介することもあります。また、僕らの技術や素材を知ってもらうために、エンドユーザー向けのワークショップを開催しているのですが、普段、表にはほぼでない周りの工場の職人たちに協力してもらっています。

僕は基本的に他力本願なので、ただただ周りを巻き込んでいる感じですね(笑)」

 

小林

「僕も同じです。僕らにとってゴルフ場という『場』があることが強みなので、『このゴルフ場を一緒に活用してくれる人、この指とまれ!』という感じです(笑)。

お客さまはもちろんですが、地域の人たちもゴルフ場で幸せを感じてもらえる、この場が地域のコミュニティーとなればいいなと思っています。

いまは自治体や事業者との連携も始まり、少しずつ地域のコミュニティーの基地になりつつあって、当初はゴルフ以外のお客さまが来ることに戸惑っていたスタッフも慣れて、受け入れやすい場所になってきていると思います」

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若干26歳にして家業を引き継いだ小林さんの事業は、栃木県さくら市にあるゴルフ場「セブンハンドレッドクラブ」の運営です。現在、ゴルフ場をコミュニティーの場とした、小林さんの新たな取り組みが着々と進行しています。

「オフラインの良さはあると思うので、人が集まれる『場』はやっぱり必要ですね。

ロフトワークも共創コミュニケーションには力を入れていて、世界10カ所以上でデジタルモノづくりカフェの『FabCafe』を運営しています。ここでモノづくりを中心としたコミュニティーを作り、ミートアップを仕掛けたりと、ハブ的な役割を担っています。

そのほか、マテリアルをコンテンツとしたコラボレーションスペース『MTRL』では、素材を持っている方と素材を探している方をマッチングし、新たな製品やサービスが生まれる場として活用しています。

これらのコミュニティーから専門の人材を探し、プロジェクトに知見を付加する取り組みも行っています」


遠藤

「エヌエヌ生命保険の本社内にもコミュニティースペース『NN Shibuya Crossroads』を準備しています。正式なオープンはこれからですが、後継者の方やそういう方をサポートしたい方が出会える場として運営していきますので、共創の第一歩として、出会い場の力を利用していただければと思います」

05 文化を生み出す。 →  新しい価値が伝統となり、文化になる。

「事業を通じて、社員の働き方や働く意義を変え、生活者に新しい日常を提供し、地域の伝統や自然を受け継ぐ人々を増やしていく。経営者のビジョンは、経済の発展のみに留まらず、文化を生み出すことに繋がる」

※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」より

「共創コミュニティーを作ることで、活動を共にするメンバーの中に文化が生まれてくると思うのですが、小林さんはそれを実感することはありますか?」


小林

「昔からゴルフ場は『富裕層が利用する場』というイメージがあるかと思うのですが、それを『一般の皆さんが利用する場』として定義しなおすと、全国に2000カ所あるゴルフ場が大きな拠点として意味を持ってきます。

地域の魅力を感じ、地域の活力を共に作る場として、ゴルフ場が位置づけられれば、ゴルフそのものも見直されてくるかもしれません。

僕らは『みんなが幸せを実感するゴルフ場』というビジョンを掲げているのですが、その先にどんな未来を描くかについても、皆さんと少しずつ話し合っていけたらいいなと思います」


小沢

「僕らのような工場は、優れた技術があっても、会社そのものを存続させることが難しい世の中になっています。

そんな中で、僕が文化を残すという意味で大事にしているのは、『知好楽』という言葉。まずは『知る』こと。そして『好き』になり、最後は『楽しむ』とあるように、僕自身が楽しんで仕事をしないと、その良さは誰にも伝わらないし、すごい技術があっても誰も欲しいとは思いません。

僕らは伝道師ではないけれど、『僕らの素材を使えば、こんなにも楽しいことができる』ということを広く伝えていき、たくさんのファンを作っていきたい。それが、小さなマーケットを守り、文化を残すことに繋がるのではないかなと思います」


加藤

「小沢社長がいうように、自分たちの事業のファンをいかに作れるかが大事です。僕らもその文化が途絶えないように、少しでも皆さんのお手伝いできたらいいなと思います」

1時間半にわたるオンラインイベントは、株式会社ロフトワークの加藤さんと桂さんが『デザイン経営』の概要と、プロジェクトを進めていく中で得た知見を分かりやすく解説していただきました。そして、有限会社三幸の小沢さんが、実際に『デザイン経営』を取り入れた背景や、同社のモノづくりへの思いを語り、若き経営者である株式会社セブンハンドレッドの小林さんは、事業継承後のスタッフとのコミュニケーションの育み方から、現在進行形の取り組みについてリアルな言葉で話していただきました。

冒頭で加藤さんが話されたように、『デザイン経営』は大企業だけの取り組みではありません。長年続いてきた家業を引き継ぐ後継者の皆さんこそ、事業のステップアップに向けての一つの切り口として役立てていけるものです。

歴史や伝統、経営者の想いを生かしつつ、必要と思う部分をアップデートしていくことで、新しい価値を創造できる企業体質へと生まれ変わるかもしれません。そのための環境づくりは、皆さんの力にかかっています。

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家業を承継した全国の経営者たちのコミュニティーの場として活動する「家業イノベーション・ラボ」。イベントやセミナーなどの最新情報は、Facebookをチェックしてください。

「家業イノベーション・ラボ」では、『デザイン経営』だけではなく、家業の後継者のお役に立てるさまざまなヒントを、イベントを通して提供しています。また、Facebookコミュニティーなどを通じて、家業の後継者ならではの悩みや不安を解消するサポートも行っています。

今、悩みを抱えている後継者の方、いろいろな方の話を聞きたいと思っている方、そういった方たちを応援したいと思っている方は、ぜひ、「家業イノベーション・ラボ」にご参加ください。


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※この記事は、家業イノベーション・ラボのウェブサイトに掲載されたイベントレポートの転載記事です。




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