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経営のヒント

コロナをポジティブに捉えよ!
クオンタムリープ株式会社 代表取締役会長 ファウンダー 出井 伸之 氏

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この記事は6分で読めます

ウィズコロナ、ポストコロナという言葉が取りざたされるようになった。ニューノーマルなる新しい生活様式の模索も始まっている。そうした状況の中、淘汰される企業と勝ち残る企業ではっきりと明暗が分かれてきている。この現状をどのように見ていったらいいのか。元ソニー社長・会長で、クオンタムリープ株式会社 代表取締役会長 ファウンダーである出井伸之氏に話を聞いた。

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「スペイン風邪」と「新型コロナ」時代の相似性

コロナ禍で、社会には漠然とした不安が広がっている。そうした現状についてどう考えているか率直に聞いてみたら意外な一言が返ってきた。

 

「僕は結構こういう状況に興味がある」

 

そう聞いて一瞬戸惑ったが、話をよく聞いてみると、長年グローバルかつ長期的な視野でビジネスに携わってきた出井氏ならではの見方であることに気づいた。

 

「100年前の第1次世界大戦の時にスペイン風邪が流行した。グローバリゼーションが進む時には色々な病理が起こる」

 

スペイン風邪も、第1波から第2波まで収束に2年かかった。新型コロナの収束にも2年はかかるのではないか、との見方を示したうえで、当時と今の世界情勢の相似性を出井氏は指摘した。(注1)

「当時は産業革命が起こる直前で、ドイツが大きくGDPを伸ばし、イギリスとぶつかった。今回は中国が経済を大きく伸ばし、アメリカとぶつかっている」確かに、当時と世界情勢は酷似している。

 

実は、スペイン風邪の時も、日本はある程度の被害に留めたが、フランスやドイツ、イギリスなどでは大量の死者が出た。

 

歴史は繰り返すのか。

ポストコロナの日本

そんな中、国際政治経済ジャーナル”Foreign Affairs(フォーリン・アフェアーズ)”に7月、注目すべき記事が海外の友人から送られてきた、と出井氏がそれを見せてくれた。題して、「ポストコロナの日本が世界を魅了する(Post-Pandemic Japan will attract the world)」

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記事は、人口減少社会の日本において、今後、外国人の高度人材に需要が高まると共に、学費が欧米と比べて比較的安いことから外国人留学生にとって日本は狙い目だ、という内容だった。

 

確かにそうかもしれない。もっとも成長余力の少ない日本を憐れんで、「私を元気づけようとして送ってきたのかもしれないけどね」と出井氏は笑う。

 

そうした見方がある一方、出井氏がコロナ禍で最も強く感じているのは、「役所のシステムが旧態依然としていること」だ。

 

その最たるものとして出井氏は「ハンコ」と「マイナンバーカード」を挙げた。

 

「日本はハンコ社会。この間テレビで、外国人向けにハンコを作ってる会社が潰れるなんてやっていたが、外国人も日本にいる限りハンコがないと困るという」とあきれ顔だった。

 

また特別定額給付金を全国民に迅速に配る為に本来有効だったはずの「マイナンバーカード」だが日本での普及率は2割を切っている上に、住民基本台帳とデータが連携していないことも今回明らかになった。

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「他の国では制度が整っているから、カード1枚持っていれば何でもできるようになっているのだが」と述べた。

 

つまり、日本のデジタルシフトが遅れている、という指摘だ。

 

そこで中小企業のデジタルシフトはどうあるべきか聞いた。

 

出井氏が見せてくれたのは「XYZ戦略とABC戦略の図」というものだ。XYZ戦略というのは、従来の延長線上の戦略を指す。いわば既存事業の延命策のようなものだ。一方、ABC戦略とは全く新しい成長戦略を指す。どのような組織でも、XYZ戦略とABC戦略のせめぎ合いは起こりうるが、中小企業の場合はどうか?

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図)XYZ戦略とABC戦略

出典)クオンタムリープ株式会社

「中小企業の場合、親が成功してその伝統を後継者が受け継ぐパターンが多い。しかし、制度は徐々に古くなっていく。そして新しい世代が次々に新しいものを創っていくわけだが、その時に、伝統を生かしつつも、何を捨てて何を新しくするかが重要だ」と出井氏は説く。

 

しかし、それは容易なことではないだろう。 

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ポストコロナ 中小企業の課題

ポストコロナの時代、中小企業の経営者はどう考え方を変えていくべきなのか、更につっこんで聞いてみた。

 

出井氏は、「いくつかあるが、その一つはデジタルシフト」と断言する。

 

その上で、「何をデジタルシフトするかが重要だ。特に、コロナ禍で変わっていく需要をいかに捉えるかだ」と述べた。

 

ただ単に業務をデジタル化するだけに終わっている企業はないだろうか?コロナで大きく変わる市場の動向を見定めてこそ、真のDX(注2)となる、との氏の指摘には重いものがあると感じる。

代替わり=イノベーション

我が国約400万社の内、99.7%を占める中小企業。常に競争は激しく、やむをえず淘汰されていくところも多い。そんな中、勝ち残るためにはDX、そして次の市場を正確に睨んできちんと代替わりしていくことが必要だ、と出井氏は力説した。

 

事業を継承していく上で大切なことは何か聞いた。

 

まず出井氏が指摘したのは、最初に話してくれた「ビジネスモデルの変革」についてだった。

 

「伝統を父親が作ったら、次は新しくしていかなくてはならない。革新と伝統の組み合わせが重要であり、上と下の代で同じ事が継続してはいけない」

 

過去の延長線上に、新たなビジネスモデルを描いてはだめだ、との戒めだろう。

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ウィズコロナ・ポストコロナの経営

ウィズコロナ・ポストコロナの時代をどう捉えたら良いのか。出井氏は、「コロナは分断だ」と断言する。

 

「EUは国境を閉めて、EUではなくなってしまった。企業も社員と分断しているし、家庭も家庭内暴力や離婚が問題になった。コロナが全て分断していく」

 

そう述べた上で出井氏は敢えて「コロナをネガティブに捉えず、ポジティブに何かをやっていこう」と言う。

 

しかし、と氏は続けた。

 

「もちろんポジティブに捉えなければ始まらないが、変化の本質を捉えないと世界に出遅れていく、とも感じている」

 

時代の変化をどう読み、どう経営を変革していくのか。出井氏の指摘をどう受け止めるのか。経営者のチカラが問われている。

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注1)スペイン風邪

スペインかぜの1回目の流行は1918年8月下旬から9月上旬より始まり、10月上旬には全国に蔓延した。流行の拡大は急速で,11月には患者数,死亡者数とも最大に達した。2回目の流行は1919年10月下旬から始まり,1920年1月末が流行のピークと考えられ、いずれの時も大規模流行の期間は概ねピークの前後4週程度であった。全世界で患者数約6億人で、2,000万から4,000万人が死亡したとされている。

出典)東京都健康安全研究センター

 

注2) DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術の活用による抜本的な事業の改革




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